第2話 テイム民。
「ーー・・あの、本当にやるのですか?別のところでも....」
なぜか一緒についてきた彼女は、心配そうに多様なモンスターで形成される集落を見つめていた。
「ついて来んでよかったけぇ。」
できれば、元冒険者の彼女に待機させている民を守らせておきたかったという意図があった。
「いえっ、もし何かあったら...」
「ん?まだ正面突破せんど。」
「?」
先の奴隷商との戦いから、てっきり正面突破から薙ぎ倒すかと思われていた。
「まぁ、みちょれ。」
そうすると、彼は奴隷商が持っていた弓を構え、四隅の高台の見張りを射った。
計算し尽くされた矢は音もなく標的を倒し、丁度高台から落ちぬようにしゃがれ込んでいた。
「....すごい。」
「....。」
感嘆を漏らしている彼女を側に、門番の兜を被った人狼モンスターを射ち続け、次に巡回している他のモンスターを淡々と殲滅した。
「「わぁー!」」
「「「わぁーわぁー!!」」」
ようやく敵襲を察知したモンスターらは、今もなお兵隊が頭を撃ち抜かれ続けている眺めに恐怖しており、混乱の渦に呑まれていた。
「わぁっ!!」
「「「.....。」」」
キュィンッ!!
「...ぁ...が...」バタンっ
鎧を着た殿らしきちょっと光ってる猪型のモンスターが、体躯の半分くらいの大斧を肩に乗せ場を絞めていたが、既に彼の標準に定められていた。
「「「ぐわぁーーー!!」」」
殿が倒れ一気に場が混乱に支配された。
「・・うむ、行くか。」
「えっ?!大丈夫なのですか?」
彼女のいう通り、まだ戦力を隠している可能性はあったが、なんとなくそんな氣配はなかったため、進むに決めた。
「あぁ、あとは百姓じゃろう。」
「百姓?」
そして、未だカルチャーギャップは埋められずにいた。
「ーー・・グワァーっ!ガァォ!!」
キギィィッ!!
制圧済みの木造の関門を開けると、広場で騒いでいたモンスター達はこちらに気づくと、一斉に静寂に支配された。
「「「....。」」」
「あの、東元さん...」
明らかに怯えた目でこちらを見受けているモンスター達からの視線に対応を促していた。
しかし、動物の相手との力量を測る能力を信じ、彼は多くは語らず得物に手を添えていた。
「まぁ、まっとれ。」
しばらく睨み合い、タイミング的にも先の襲撃の本人だと思ったモンスター達から、代表者らしき人狼モンスターがこちらに近付いてきた。
「..人のことば、少し..分かる。」
「申せ。」
「おれたち、負け、認める。こどもだけでも...」
モンスターなるものともいえど、命乞いをする様は殲滅するはずの彼の考えを改めさせた。
ーーーLv.9 ??コボルトが仲間になりたそうに、こちらを見ています。
「...あー、シレイ。頭から変な声が聞こえるんだが..」
「?...もしかして、テイムの事ですか?」
「てぃむ?」
「えぇ、モンスターを仲間に出来るのですよ。」
「なにか良いことあるのか?」
「もちろんっ!主従関係が結ばれて、仲間にできます!」
「うむ、忠義を誓うのか...主、名は?」
「なまえ、ない。」
「そうか、では主はこれから、ろう助じゃ。よろしゅう頼む。」
「あぁ.....」
図らずとも、正式な主従契約が結ばれた。
ーーーろう助がテイムされました。
「ぬぉ...これがテイムけ...」
「うわっ、なんか光ってます!!」
無機質な声が鳴り響くと、ろう助の体が光に包まれ、止んだ頃には漆喰の甲冑を見に纏い腰には、確かに精錬された刀を二刀携えていた。
「....我が主。お供いたす。」
ーーーーーーーーーー
名前: ろう助
称号:薩摩民一号。示現流・初段。.....
スキル:剣術Lv.9. 弓術Lv.9. 交渉術Lv.8. 初級魔法Lv.3......
加護:????
体力: 4400
魔力: 2300
筋力: 2000
耐久力: 1200
敏捷性: 4800
知性 : 3900
運: 1111
?:mdkkj
ーーーーーーー
テイム前と比較して、ステータス値はおそよ十倍にまで膨れ上がっていた。
そして、ろう助には彼の言語と文化などがインストールされ、跪き忠誠を誓うその様は、数多の戦で共に戦った、かつての薩摩の家臣を彷彿とさせた。
「あぁ、よろしゅう頼む。」
彼はこの時、この先の常世が荒れることを確信した。
その後、残った全員のモンスターが彼に下った事で、皆ろう助のような風体になり、無事に主従関係が結ばれた。
「ーー・・大通りの整地が大方進んだか?」
「あぁ、今は家屋の補修と基礎の構築をやっとる。」
「うむ、手の空いてる者は水路の治水に着手しろ」
「御意。」
東元の洗礼を受け、良くも悪くも薩摩の文化と知識と強さを受け継いだコボルトやオーク、猪寄りのオーク、ミノタウロスなどの多様なモンスター達が小規模だった集落を町へと開拓していた。
開発途中とはいえ、テイム民達による魔法や驚異的な膂力と連携力から、すでに道々はならされており、建物群の基礎が建築され、町の中央には既に石畳の行政施設ができていた。
まさに、連れてこられる途中に通った少し栄えた交易都市に近い様態にまで迫っていた。
「こ、これは...」
「どういうこった...」
その様子を見ていた元奴隷達は、ポカーンとしていた。
「今度は、魔族にうられるのか?」
そして、年端もいかぬ子供は懐疑的な思いを得ていた。
「..それは違うな」
「うわっ?!東元っ....わぁぁ!」
東元はその子を肩車して、より高くから開拓の様子を眺めさせた。
「お主らも、ワシがてぃむした者らと同じ民だ。歓迎するぞ...」
「ここが薩摩國だ。」
晴れやかな日向を一身に受けながら、健全な営みが行われている街を一望した元奴隷達には、懐疑的な心などあろうことなかった。
そうして、昨日の敵はなんとやらで急速に町の基礎を構築し終え、夜が更けた頃、ささやかな宴会が行われていた。
「ーー・・ワシのことは恨んでおらんのか?」
「...戦い人であれば、生き残ったものが正義。」
彼から薩摩イズムをインストールされたモンスターとはいえど、遺伝子淘汰的な思想が根深いようだった。
「ほぅ。」
そして、その思想は東元の大好物だった。
「して、主は、どこへ向かうつもりでしょうか?」
また、達観的な思想を持ったろう助は、それよりも既に彼の家臣として、彼の向かう先を知りたかった。
「..まずは、ここ一帯を掌握し、経済、軍事で薩摩国を強靭にし...行方は天下統一じゃぁあああ!!!」
見事に同郷に近い家臣を寵愛出来た事に、ニヤリとしめたと思いながらヒートアップし、彼はここで成す事を声高々に宣言した。
「「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」」
「うぅ...私たちどうなるですか...」
「「「うぉぉぉっ!!」」」
すでに彼の王としての資質に魅了されたテイムされた民と、元奴隷達に挟まれ、シレイはヤバい人について来てしまったと心配粛々としていた。
あとがき
テイム民
薩摩の文化・知識・戦術などの体系がインストールされており、剣や弓、戦術に長け二本の刀と着物を携えている。
前の世界から、東元の右腕クラスの度量がテイム民の標準。
薩摩武士が異世界をぶっ壊す。 wakaba1890 @wakaba1890
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