2度目ましての異世界で、鬼とウィッチクラフトの話をしよう。

@hilali

第1話

昼間でも薄暗い物置部屋に一歩足を踏み入れれば、埃が舞い上がる。換気窓から差し込む光の中を、ゆっくりときらきらとした光の粒子が揺れ動く。


「早く花瓶を探さなきゃ。時間かかると朝食が、また食べられなくなっちゃうよ」


ぽつりと愚痴を吐き出して、辺りを見回す。


埃避けの白い布がかけられた年代物の家具を素通りし、雑然と積み上げられた木製の収納箱は…、割れ物を仕舞うのには不向きと判断して無視。


あるとすれば、壁沿いに設置されている棚の中だろうか。


とりあえず、不揃いな大きさの木箱が隙間なく詰めてある棚から探そうと気合いを入れる。一つ木箱を取り出して蓋を開けると、真っ白な陶器の花瓶が入っていたが…ハズレ。


キャロライン専属侍女に朝食の前に取りに行くよう命じられたのは、ピンクの花模様が特徴の花瓶だ。蓋を閉じて、その隣りの小箱を取り出し蓋を開けると、今度はウサギの置き物。またハズレた。


溜息を一つ吐き出して、ふっと思う。


『私とキャロライン。同じデュモルティー伯爵令嬢なのに、母親の違いは絶大で扱いが酷くて。辛い』と。


キャロラインは私の義妹で、水と光のスキルを有している聖女だ。


スキルとは、怪物シュトラーフェが生み出す魔物から身を守る力だ。


1000年前、魔族とアランス王国の間に起きた大規模な戦争の折に突然姿を現した災厄級の怪物シュトラーフェは破壊と殺戮を繰り返し、アランス王国の文明衰退を招いた。アランス王国の民だけでなく、魔族や近隣諸国の人々までおびえながら暮らし、死の恐怖にとらわれた。人々は教会に心のよりどころを求め祈りを捧げ、テティス神様は人々の未来を憂いてシュトラーフェに対抗する力を民に授けた。


その力がスキルだ。誰もが1つから2つのスキルを有していて、光のスキルを有する者は聖女、聖人と呼ばれる貴重な存在だ。


現在シュトラーフェは光のスキルにより封印されているが、それでもシュトラーフェは瘴気を吐き続け、その瘴気から魔物が発生するのだ。魔物は人々の脅威となるため、魔物が発生した場合は速やかに討伐する必要がある。だが、魔物を倒す方法は、光、火、水属性のスキルを使用した攻撃のみで、誰もがおいそれと倒せることができない。


そして、デュモンティー伯爵家は攻撃力に優れた水属性のスキルを使い魔物を討伐することから、国王の信用を得たている。


父はデュモルティー伯爵として家柄、血筋を守り、一族の繁栄のため政略結婚をすべきだったが、身分違いの大恋愛の末、周囲の反対を押し切り母と結婚した。そして産まれたのが私、リデア・デュモルティーなのだが…。


私のスキルが戦闘に不向きだったため当然、母は親戚から嫌がらせをされて、耐えきれず父と私を残して伯爵家からある日突然出ていった。


他所に男を作り駆け落ちしたのだと、使用人たちの間で噂になり、父は悲しみを紛らわすためか、母への当てつけかわからないが継母と再婚し、キャロラインが生まれた。


父は母を恨んでるようで、私に対して情など無い。それでも孤児院に入れずデュモルティー伯爵家に置くのは、政略の駒だからだろう。きっと裕福だが問題ある子息か、何回も結婚してるであろう年の離れ過ぎた相手と政略結婚させられる。それまでデュモルティー伯爵家の使用人のように過ごすのだ。


そんな風に漠然と、未来を想像しながら木箱を開ける。中は木彫りの魚を咥えた熊だった。


「を使わなきゃ、見つからないかなぁ」と、大きな溜息を吐いて木箱に蓋をした。


母を追い詰めた原因のスキルなんかに頼りたくないが、仕方ない。


数回パチパチと瞬きをして、ピンクの花柄の花瓶を思い浮かべて呟く。


「サーチ」


数秒経過したが、棚にはなんの変化もなく「おかしいな?」と周囲を見回すが、目当ての反応はない。


私のスキルは「探索」だ。紛失物 を見つけたり、指定した場所などを探査、調査して新しい物や魔物を発見したりする。


一見便利そうなんだけど、戦闘スキルじゃないから屑スキルだ。


「あーぁ。やられたぁ」

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