リロイの王国

カク セカイ

第1話 プロローグ 王国の灯火

王暦505年


「ヒューーーバンッ!!」


何度聴いた音だろう……


たったの数百メートル離れた所で、この国の人々は悲鳴をあげている。


その場所の空を見ると、毎日のように爆弾を積んだ大きな鳥が優雅に翼を羽ばたかせている。その下では、生きるか死ぬかの地獄が繰り広げられている。


今日は大丈夫だったけど、明日はここかもしれない……明日こなくても、明後日かもしれない……

孤児が集まるこのラシーヌ農園の子どもたちは、眠りにもつけず永遠とそんなことを考えている。


俺の故郷はとっくに真っ平らになっていて、そこら中が焼け野原と化している。

道を歩けば死体の腐敗臭と、焦げ臭さが鼻を刺激した。母親が爆弾で死んでも、助けてくれる人はいなかったし、幼い俺にはどうすることもできなかった。


逃げ惑う人々に身を任せ、一心不乱に走ることしか出来なかった。


あの地獄の夜が明けて、疲労と空腹から地べたに座っていると、小綺麗な格好をしたお姉さんが声をかけてきた。


「君、ひとり?」


喋る気力も残っていなかった俺は、小さく頷くことしか出来なかった。

すると、 そのお姉さんは俺を背中に乗せると、豚車に乗せて農園へ連れて行ってくれた。

あの時に見た5、6匹の豚が、颯爽と焼け野原を駆け出していく姿が今でも脳裏に焼き付いている。


10歳でこの農園に来てから5年間、食べることにも困らず、平和な生活を送ることが出来た。

屈強な兵隊が入口に構えていて、病気になれば医者がすぐにやって来る。

この農園主で、俺を地獄から救い出してくれたナミエル姉さんに出会わなければ、あの時俺は間違いなく死んでいた。


姉さんはここら辺の大地主エド・ナミエルの娘で、孤児を見つけてはこの農園に連れて来た。 50ヘクタールはありそうなこの大農場で、150人近い子どもが暮らしている。


ここに来てから多くの友達が出来たが、その中でもロイは特別な存在だ。俺がここに来た時、周りに溶け込めるように輪に入れてくれたし、母親を失った哀しみを寄り添って癒してくれた。

ロイには、他の人とは違う不思議な力があった。ロイの周りには常に人が集まるし、喧嘩を仲裁するのも、みんなを纏めるのも全部ロイがやってくれた。

農園には暴力的な子どもも居たけど、腕っぷしの強さでロイの右に出る者は誰一人としていなかった。

ロイは格闘、勉強、人格の全てが真に完璧と言える人間だ。これまでの人生でロイ以上に尊敬できる人はいなかった。

容姿も抜群にかっこいいロイは、サラサラの金髪のオールバックに、眉毛と目がキリッとしていて、農園の女の子はみんなロイに恋してた。


俺はロイに嫉妬してた。


俺も格闘、勉強において、農園の子どもたちには負ける気がしなかった。でも、ロイだけには勝てる気がしなかった。


それから俺は、ロイの親友としてあいつを支えていくことに決めた。

あいつは間違いなくこの国を良くしてくれる。

腐敗した国王を倒して、この国のリーダーとして俺たちを導いてくれる。俺はそう確信している。


この国は死にかけだ。


世界の3大国ヴェルトカイザー帝国、ディーブル王国、リリアス諸国連合に挟まれている小さな島国ムルモント。


腐敗した国王、紛争、貧困……この国の人々は今日を生きるだけで精一杯だった。


国王バージス3世は、先代が築き上げた豊かな自然の国ムルモントを、たった数年で動物も住めないほどに荒廃させた。

突如として森林を破壊し、近隣諸国に木材や農作物を急速に輸出した。そのお金で武器を購入し、ムルモントは軍事国家へと変貌を遂げた。

バージス3世は国民を徴兵し、他国への侵略を進めた。しかし、大国を相手にバージスの野望は儚くも散り、領土拡大の野望は夢半ばにして頓挫した。

木材の輸出が国の経済を支えていたムルモントは、貧困に喘いだ国民が各地で争いを始めた。

バージスは反乱を起こした地域に容赦なく爆弾を投下し、俺の故郷も犠牲になった。

国民の命を顧みないバージスのやり方に、民衆からは不満の声が上がっていた。


バージスを倒すには剣の道を極め、王制を武力によって打倒するしかない。

そう考えた俺は、ロイを強引に外へ連れ出して、近所の爺さんに剣術を習い始めた。

その爺さんは武器屋の主人で、車椅子にも関わらず、剣の腕前は最強だという噂だ。

頑固な爺さんだったけど、1週間頼み込んでやっと教えてもらえることになった。

でも、 最初は剣術を教えてもらえなくて、皿洗いや掃除ばかりやらされた。


「もっと腰をいれて磨かんかい!」


少しでもサボると、爺さんは怒鳴り散らかす。最初はロイと一緒に頑張っていたけれど、

俺の我慢もそろそろ限界だ。


「ヨーテス爺さん、そろそろ剣を握らせてくれよ!」


「バカもん!小僧が剣を握るなんて、300年早いわ!」


車椅子姿に無精髭、ヨレヨレの茶色い服装。のくせに威張り腐る、この爺さんに何で従わなきゃいけないんだか……いい加減、分からなくなってくる。


「不満も言わずに、よくやるよな」


「リロが誘ったのに、もー諦めるの?」


「ちぇっ……」


ロイが文句も言わずに雑用するから、やめられないじゃんか……


それから1ヶ月間、昼間に雑用を続けながら、夜にロイと木の棒で自主練に励んだ。


「おらっ、バンッ……うわっ」


「また俺の負けかよ、クソ……」


「リロは考えなしに大振りだから負けるんだよ……」


「うるせぇ、もう1回だ」


俺たちは剣を習ったことがないのに、ロイは信じられないほどに強かった。一振見れば分かる……ロイの剣術は天才的だ。

何百回もこうして戦ってるのに、一度も勝ったことがない。


「姉さんに怒られるから、そろそろ帰ろうよ……」


「上手く抜け出したからバレやしねぇよ」


寝る間も惜しんで、家を抜け出しては畑で特訓に明け暮れた……



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