第3話
変化が起こったのは、その晩のことだった。
夕飯を食べ、桜庭が泊まるというから自室にバリケードを張って対策を取り(桜庭がいる時はいつもこうだ)桜庭に気づかれないよう十分に警戒して入浴しようとした頃だったように思える。
桜庭がいるときの夜は僕にとっては命懸けで、添い寝しようとしたり風呂に乱入してきたりシンプルに夜這いしようとしたりするため、対策を取らねばすぐに貞操を取られる。萩さんや忍は全くもって協力してくれないので、独断専行だ。
僕は誰よりも早く風呂に入り、誰よりも早く眠りにつかなければならない。隙を見せればヤられる。結局萩さんは何もしてくれないから、それどころか添い寝推進派の伏兵だから、風呂は自らの手で沸かす。
桜庭はずっと僕のそばにいようとしてくるので、桜庭がトイレに行っている間や、忍と話し込んで僕から目を離している瞬間がチャンスだ。桜庭と忍は仲がいい。そのまま忍の元に行ってほしいものである。
今日は桜庭が早々にトイレに行ったので、勝機はすぐに訪れた。気分は忍者、忍び足で風呂場に向かい、脱衣所で忍法早着替えを実践し、風呂場に入って鍵をかける。ここまでやり切れば、あとは勝ったようなものだ。
ただ、僕はこの時に鏡で自らの肉体を見ていれば––––もっと早くに、自分に何が起こっているのかわかっていただろう。
にしても、なぜか僕が沸かす前から沸いていたのだが、忍か何かがさっき入ったのだろうか––––––––。不思議に思いながらも、湯船の蓋を開ける。
「––––––––––––へ?」
湯船の中に、裸の女。
「……………………ぷはあっ。やっほー、順ちゃん、お背中流しにきたよっ」
桜庭は、水中から顔を出すと、ニコニコとした笑顔で言った。一糸纏わぬ姿で、風呂場なので僕ももちろん一糸纏わぬ姿だった。
「………………」
「あはっ、いつも私と一緒に入りたくないから私がトイレ行ったりしてる時に秒で入ってるの知ってるんだからね。でもいつも鍵かけちゃうから、今回は先回りしてみましたっ! どう? 策士でしょっ?」
唖然。
僕は全裸のままその場に立ち尽くした。
もう桜庭と僕の間に恥なんてものはないのかもしれないけど、これもまたあれだ、彼女に裸を見せるということは、彼女を許していることと同意義だ。それはなんか違う気がして、僕は一緒には絶対入らないようにしている。
桜庭の肢体は火照っていて、やはり魅力的な曲線を描いている。だけど、これで興奮してしまうわけがない––––。
そもそも。
それ以前に。
この時点で、僕は興奮して変化する器官を失ってしまっていたのだから––––––––。
「あれっ、順ちゃん⁉︎」
桜庭は、僕の体を見て唐突に声を張り上げた。桜庭のウィスパーボイスが比較的大きめな風呂場に反響する。
「ああん? なんだよ、人の体見てそんな素っ頓狂な……」
「いや、そういう話じゃないよ、順ちゃんっ! ちょっと––––」
「おちんちんが、無くなってるよっ!」
鏡を見た。
そこには、僕の顔をした少女が立っていた。
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