ーー天は二物を与えずーー

 ーー神殺樹(シンサツジュ)。

 それは神すらも殺すと言われる伝説の樹。

 眠りの森を抜け、|就眠街(スリーピア)へと足を踏み入れるセウォルツ。

 道ゆく先で出会ったのは、双子のミザディとアルロイだった。

 眠れる街の静かな夜、3人は意気投合し、即席の宴が始まる。

 眠りの歌が辺りを包み、イビキの音色が祝福のように響く中、彼らは知らず知らずのうちに運命を共にする旅へと歩み出していたーー


 『彼氏を探してるんだって?』


 『うん...... 森で出会ったの 急に現れて...... でもすぐに消えちゃった......』


 『なんだよ、それ 幽霊なんじゃねぇのか?』


 茶化すミザディに、セウォルツは涙をこらえた瞳で見つめ返す。


 『うぉっ、そんな顔すんなって! アタイが悪かったよ』


 (な~んか調子狂うんだよなぁ...... 純粋すぎて眩しいぜ......)


 『分かったよ じゃあ、一緒に付いてってもいいかぁ?』


 『え...... いいの? 嬉しい!!!』


 飛び跳ねるセウォルツを見て、ミザディは悪くない気分になる。


 (ま...... 嬢ちゃんといると、なんかよく眠れるしいっか♪)


 姉さんが行くならとアルロイも同行を決意し、即席の探検パーティーが結成された。


 『あの方角でいいんだよな? よ~し! じゃあ行くぜ~~!!』


 3人が元気よく出発しようとしたその瞬間

 ――ミザディの顔を矢が掠めた。


 ーー弓神アルテポラ |極夜の断罪(ポラナイト・ダミネ)ーー


 遥か彼方から放たれる矢は、断罪の夜を連れて絶望をもたらすと言われている

 その矢に触れ、還ることができるとすれば

 ――器としての身体だけだ


 『姉さん!?』


 『ちょっと...... そこのキミ♡ お姉さんと遊んでみない?♡』


 振り返ると、虚ろな目をしたセウォルツがアルロイに話しかけてくる。


 (セウォルツさん......!? こんなの、セウォルツさんじゃない...... え......!?)


 事態の急変に動揺するアルロイ。

 だが、どういうわけか怪しいセウォルツに心が惹かれてしまう。


 『セウォルツさん/// やめて......近づかないで///』


 ーー誘惑神ダラミシアン |性惑の声(セデュース・ボイス)ーー


 どこからともなく人に憑いて誘惑する声 

 虜となった者は盲目にさせられる

 対象が異性であればより強力となり、抱きついて離さない

 ――離れるとすれば、骸と化した時のみ


 ーー誰も知らぬ異界の土地でーー


 『ふふっ♡完璧♡後は任せるわ、弓神さん 私はあのお方に報告するから』


 『サボるでないわ...... ダラミシアン 遠隔型の我らが選ばれた意味を分かるか? あの方が望むのは確実な成功だ...... 気を緩めるな』


 アルテポラがダラミシアンを諫める時であった。


 『ふ~ん あの方ね...... 誰かしら?』


 『貴様は......!!! 録星ヘルヘイム!!! なぜここが分かった!?』


 (運命の七連星、録星のヘルヘイム...... 全てを知る者と聞いたが、ここまでとは......)


 驚きを隠せないアルテポラを見て、ダラミシアンは薄笑いを浮かべる。


 『あの方を教えるわけないでしょ♡それより、彼女達を助けなくていいのかしら?♡ 死んじゃうわよ?♡』


 余裕の笑みを浮かべるダラミシアンに、ヘルヘイムもまた余裕の笑みで応じる。


 『死ぬのは貴方達でしょう? 相手が悪すぎるわよ?』


(何を馬鹿な事を......)


 アルテポラが呆れ返ったその時

 ――ダラミシアンが突如崩れ落ちた。


 『かっ......!!! かはっ......!!? く......苦しい......!?』


 衰弱するダラミシアンを横目で見つめ、アルテポラはヘルヘイムに問う。


 『何をやった?』


 『何もやってはいませんよ? 貴方達は自爆しています』


『意味が分からん......』


 そう呟いた瞬間、アルテポラにも絶望が襲いかかる


 『ぐ......!? 何だ......!? これは!? うわぁぁぁぁーー!!!!?』


 絶叫を上げるアルテポラを眺めながら、ヘルヘイムは独り言のように呟いた。


 『それにしても本当に運がないですね...... 貴方達...... 運命の奈亡星の呪いを知っていれば、あんな馬鹿なマネはできないでしょうに......』


 ーー運命の奈亡星 ミザディ&アルロイの能力ーー


 奈落のミザディ

 精神が奈落の底に浸り続けたが故に、対象を絶望させ、精神崩壊を引き起こす呪いを持つ

 攻撃してきた敵に自身の苦しみを伝えるだけで、その苦しみを共有させる

 運命の七連星には呪いが発動しない


 亡念のアルロイ

 愛する者が衰弱し、やがて亡くなる呪いを持つ

 たとえ憑依された人格であっても愛が向けられれば衰弱する

 運命の七連星には呪いが発動しない


 ーー(天は二物を与えず......)

 呪いを見てそう悟るヘルヘイム。

 あの方はまた次の機会に調べましょうか。

 ゆっくりと異界の土地を後にする。

 運命の呪いを背負う姉弟にとって、セウォルツと話せる時間は新たな希望の始まりとなるーー

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