ーー七天罰倒ーー

 ーー神殺樹。

 それは神すらも殺すと言われる伝説の樹。

 世界の観測者ダルヘイムが苦悩する時、必ず現れる彼女ーー運命の七連星、録星のヘルヘイム。

 だが、ダルヘイムは運命の存在を知らない。

 三大星に仕えし四星は、運命を教えることなく、ただ導くだけの存在だからだ。

 

 「これもまた運命の導き......」


 ヘルヘイムは虚ろな目で遠くを見つめながら呟く。


 かつて七連星は神であった。


 北斗七星――変わることなき神の基軸にして、変わることなき神性。

 その光は人を導く星でもある。


 (どうしてこうなってしまったのでしょうね......)


 世界の始まりと終焉を知るはずの彼女ですら、この答えだけは知り得ない。


 (かつて、神は人に近かったというのに......)


 脳裏に浮かぶのは、壊滅した運命の七連星だけ。

 誰と戦い、何に敗れたのか、己の役割や使命もわからない。


 「これが呪いなのでしょうか......」


 大切なことだけを知り得ない。

 それは世界の観測者ダルヘイムも同じだ。


 「悲しいものですね......今なら、彼の気持ちも心から分かるかもしれません......」


 観測者と全てを知る者――立場こそ違えど、その根底にある「世界を知りたい」という気持ちは同じだろう。


 深まりゆく霧が覆う|陸の孤島(ホワイト・アース)。


 それは苦悩する二人の心情を映し出しているようだった。


 ーー場面は変わり、神殺樹の木の下へーー


 「よいしょっと......こんなもんかな.......」


 セウォルツは神殺樹の実をありったけ鞄に詰め込む。


 (お肉に山菜を少しだけ、あとは木の実をたっぷりと♪)


 神殺樹の枝で作った鞄を肩に掛け、樹に別れを告げた。


 「樹々(じゅじゅ)〜! またね~!」


 愛称で呼びかけると、セウォルツは北へ向けて走り出す。


 (あの方角から、あの子は来たよね♪)


 頭の中にあるのは、ただひとりの男の子のことだけ。

 眠れる森を疾走し続ける。


 ーー場面は再び、陸の孤島へーー


 「ヘルヘイム! まずい! |神堕ち人(カミオチビト)が一斉に移動している! ヘルヘイム?」


 (さっきまでここにいたはずなのに......一体どこへ?)


 |陸の孤島(ホワイト・アース)は霧に包まれた孤立の大地。

 焦れば焦るほど霧は深まり、探索は遅れるばかり。


 (冷静にならないと......)


 ダルヘイムは平静を取り戻そうとするが、思うようにいかない。


 神堕ち人の離脱感と興奮の繰り返し、一斉の大移動。 


 (セウォルツ......君はやっぱり恋をしているのか 森を離れるほどに......)


 幾つもの体を操るダルヘイムは考える。


 (分身は増やせるけど、増やしすぎると集中が散る......)


 神堕ち人の回収に追われる間、犠牲者は増え続ける。


 「もうダメかも......」


 覚悟を決めたその時、ダルヘイムの処理能力が急激に向上した。


 ーー|智者の探求(クレバー・クエスト)ーー


 ――ヘルヘイムの固有能力 指定された者に作用し、情報処理をすればするほど処理能力が指数関数的に増加する――


 (普通の人なら壊れるけど......あの人なら問題ないでしょうね)


 ヘルヘイムは一瞬で神殺樹の元へワープした。


 「まったく......城を空っぽにするなんて、呆れた姫様だわ......」


 セウォルツの代わりに神殺樹を守る彼女は、密かに呟く。

 (あの子は知らないんでしょうけど......あの樹は貴方と同体なのよ)


 ーー眠れる森の姫は征く。

 森を抜けたその先には街が広がる。

 眠れる姫の暴走は止まることを知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る