猫になってでも

小鳥遊らら

第1話唐突すぎない?

「俺たち終わりにしよう。」

それは突然だった。

何の狂いも前兆もなかった私たち。

一ヶ月ぶりに彼の家に遊びに来ていた私。

百貨店で買ってきた少し高めのプリンを開けながらそこで売られていた瓶に入った牛乳になぜか気を取られて買ってしまったんだよね、なんて話してたのに。

「なんで?」

この言葉と同時に急に状況を掴み出そうとする私。

「なんでって。」

目も合わせずに答える彼。

「?」

何これ、私いま振られてんの?

「うん。」

答えにもならない言葉だけを残す彼。


悲しみと呆然で私だって言葉にできないこの感情に押し潰されそうになりながらも続きの言葉を待った。

彼は終わりたいの一点張りだった。いつからとも聞けない、一瞬でオワリの関係になった気がして気を失いそうだった。


パリン・・・・


瓶の割れる音がした。

ああ、本当に気を失ったんだ。たぶんその時に瓶を割っちゃったんだ。最悪だ。本当最悪。

そんなことを思いながら私の視界は真っ暗になった。


「あれ?」 

「確か気を失って..」


どのくらい気を失ってたんだろう。


目が覚めたのに視界はまだ真っ暗で、私は必死に光を探した。

ふと右側に手を伸ばすとパチンと点くベッドライト。夜になっていることに気づきながらもなぜかほっとする私。


そうか、ここはまだ彼の部屋なんだ。長い付き合いの私たちは彼の家に泊まることが多くて、部屋の配置なんてほぼ完璧に把握している。自然と体が覚えてる。


薄暗い部屋の中で白い長方形に目がとまって体を起こしてそっと近づいてみる。

それは何かメッセージが残されたメモ用紙だった。

「仕事だから出るよ。好きな時に出て行っていいから。」


出て行っていいってどういう意味?

一人で思わず口に出してしまう。

今ここで出て行ったらどうなるんだろう。

もう私の元には帰って来ないって意味?まだ話は終わってなかったはず。

倒れる前の記憶を少しずつ思い出していくうちにあの言葉が蘇る。


「オワリにしよう。」


前までの私なら電話なりメッセージなりすぐ送ってたんだろうけど、なぜかそんな気になれなくてただメモを見つめるだけの時間。

とりあえず返事だけ残して帰ろうと握ってたメモ用紙を裏に返して、「おかえり、お疲れさま。」と書いた。と同時に涙が溢れてきた。


今日から私は一方通行の想い、希望、期待だけを抱えて生きるんだ。

いや何とかしてより戻せるよね。なにか出来ないかな、いやなにかしてやる。

そう決心して家を出た。




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