とある作者の憂鬱

ハトノショ

第1話 どうしましょうか?


「どうしたもんか……」


 私は悩んでいた。

 思い通りに進まない、この物語に。


「……アイディアは浮かぶんだけどな……」


 そうそう。ネタ切れとかじゃなくて……。

 アイディアは浮かぶんだよ?


 でもね……。


 制御できないのよ。

 出てくるやつ全員が勝手に動いて物語をぶっ壊してくんだよ。

 挙げ句の果てには登場予定すらなかった奴が出てくる始末。


「普通のラブコメ書いてるはずだったのに……」


 ホントは主人公とヒロインが徐々に距離縮めていってね……。

 うん、まあ、なんかこう、色々あったりしたんだよ。


 その結果が……。


 なんで教頭先生が謎の組織と銃撃戦やったり、金剛力士像が出てきたり、フランスの暗殺者アサシンが学校に来たりするの?


 ラブコメだっつーの。ラブとコメだけしてりゃ良いんだよ。

 もうラブコメってかラブギャクじゃねーか。


 なんでコメの部分無くなってんの。

 ああちょっと前の米騒動ん時に食われたからってか?

 やかましいわ。


「ああああああああああああ違う違う違う!」


 ほらああああああああああああああああ。

 またコメから米騒動を連想して話逸れてんじゃん。


 物語に出てくるキャラどころか文章そのものが勝手に動き出してんだけどおぉ。

 え、どういうこと?

 文章って自我あったっけ?


文章『ええ、我々にも自我はあるんスよ』


 何でだよ。なんで文章が話しかけてくるんだよ。おまえは黙って書き手が敷いたレールに沿って走ってりゃいいんだよ。


文章『いやー。物語っていうレールに留まる程度の器じゃないんで』


 いや留まるべき器なんだよ。

 てか話しかけてくんなよめんどくせーな。

 わきまえなさいよ身の程を。


文章『ところで主人公とヒロインはどうなるのさ?』


 それを今考えてるんだよ。本来ならもう夏休みに入ってるはずだったのにテメーらが好き勝手暴れたせいで大幅な変更を余儀なくされてんだよ。


 だから邪魔しないでくんない。


 たかが文章が。


文章『暴言ですか?』


 あ、うん、ゴメン、今のは悪かったとは思う。


文章『プロ野球リーグ統一についてどう思われますか?』


 何の話だよ。

 え、もしかして私が動画サイトで誤タップした昔のニュース動画のこと?

 そんな話しても分かんないからね?

 誰もついてこれないから。


文章『ビヨーンズの新曲、何度もリピれるね』


 うんうん、そうだね。

 もう良いから。勝手に話しかけないでくんない?


文章『カエディー元気かなあ……』


 そーだね、心配だよね。

 もう良いから。こっちのプライベートをほじくりまわさないでくんない。


文章『最強の寒波って毎年来るよね』


 あーそうですね。


文章『明日、車のフロントガラス凍ってなければ良いよね』


 だから……もう良いっつってんだろがああああああああああああああああ!


 なんでさっきから当然のように会話してんの?

 なんで友達みたいに話しかけてくんの文章が?

 おかしいだろ。


文章『それは作者の頭のネジがぶっ壊れてるからだよ(笑)』


 やかましいわ。分かっとるわそれくらい。

 オマエに言われなくてもマトモな人間じゃないことくらい自覚してるっつの。

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