第三章
「えぇ~!ロバートも来るの?サインしてもらえるかなぁ♪」
ナタリアは興奮気味だった。
そんな能天気な娘を見てルドルフは言った。
「来ると言っても来週だし、まだ曜日すら決まっていないんだから。それに来週からはナタリアは学校が始まるだろう」
「だって、だってロバートにも会いたい。ここから学校に通っちゃダメ?」
ナタリアは興奮冷めやらず、なかなか引っ込まない。
「学校はママの家から通う約束だろう。ナタリア…トニーは辛いことがあったんだ。自殺を試みてしまうくらいに」
「知っているわ!学校でも噂で持ちきりだったのよ。それに、その情報は私がパパに話したのよ」
ルドルフは小さくため息をついて言葉を続ける。
「…まぁそうだけど。一緒に音楽活動をしていたロバートさんから聞いた話だけど、トニーが行方不明の間、彼は物凄く心配していたんだよ。無理もない。誰にも行き先を告げずアパートを引き払って居なくなってしまって生きているのか死んでしまったのかも解らない。その間、どんな心境だったろうね。マスコミも押し掛けて大変だっただろう。心身共に疲弊して心配していた矢先に私からの連絡を受けて随分と安堵していたんだよ」
それでも納得がいかない様子のナタリアにルドルフは、
「ずっと生死がハッキリしなかったトニーに会えるんだ。ナタリアがブルートパーズのファンでも、そこは邪魔してはいけないよ」
ナタリアは漸く渋々ながらも納得した。
ロバートがトニーに会う為に月曜日にルドルフの診療所に訪ねてくることになった。
ナタリアは水曜日から学校に行くのでロバートに会えると喜ぶも、ルドルフからロバートはトニーに会いに来るのだからミーハーな言動は慎むようにと再三言われていた。
ルドルフは月曜日の午前中にロバートを迎えに行くので、ロバートがトニーに会う前に彼の記憶喪失のことを話す為の順序をメモして出掛けて行った。
トニーはルドルフから十五時くらいに客人を連れて帰るので、お茶の支度とパウンドケーキを焼いておいて欲しいと頼まれて準備していた。客人は泊まっていくかもしれないのでディナーも頼まれていた。
ナタリアは父親のモーターボートが出て行ったのを確認するとキッチンで支度をするトニーに声をかけた。
「ねぇ、トニー、ちょっと私の部屋に来てくれない?」
トニーはパウンドケーキ用に粉をふるっていた。
「忙しいんだ。君のお父さんから頼まれた用事が沢山あるから」
トニーはオレンジピールを刻みにかかって顔を上げずに答えた。
「私、後で手伝うわ。だから、お願い」
ナタリアに手伝ってもらうのは正直、足手まといだった。
トニーは再度断ろうと顔を上げたがナタリアはツカツカと早足で近寄るとトニーの腕を掴み強引にキッチンから連れ出した。
「ちょっと、ナタリア…ダメだ。困るよ。俺、忙しいんだから」
トニーは掴まれた腕を振りほどこうとしたが上手くいかずグイグイ引っ張られた。
「放してよナタリア」
ナタリアはトニーの言葉を無視して自分の部屋に連れ込み鍵をかけると自分の服を脱ぎ始めた。
父親が留守にするのを狙っていた。
下着姿になるとトニーに抱きつき顔を引き寄せてキスをしようとしたがトニーは頭に力を入れて顔を近付けられなかった。
「ねぇ…いいじゃない、今ならパパ居ないんだから」
と言ってベッドの近くまで引っ張ってきて押し倒した。
トニーに跨がるとナタリアは枕の下からコンドームを取り出してトニーに握らせ耳元で囁いた。
「あとで着けてね」
次の瞬間、トニーは、
「うん、ジェシカ」
と答えた。
その言葉を聞いてブラジャーを外しかけたナタリアは自分の手を止めてトニーを見つめた。
トニーはベッドに横たわったまま無表情で天井を見つめている。
──ジェシカですって?彼女の名前じゃない…トニー、思い出したの?それとも記憶が混同してるのかしら?私は彼女とは似ても似つかないけど、私のこと彼女だと思ってる…?ま、どうでもいっか♪人気バンドだったブルートパーズのヴォーカリストがパパの家に居るのよ!迫らない手はないわ。トニーと寝られるなんて超ラッキーだもの♪
ナタリアは一旦トニーから離れると下着を全部脱いでベッドに腰掛けてトニーに覆い被さろうとしたがトニーが一瞬早く起き上がってナタリアをベッドに押し倒した。
──ふふっ、やった!男なんて皆同じよ。簡単。トニーだって同じ。楽勝だわ。
ナタリアは心の中でほくそ笑みトニーの服を脱がそうと手を伸ばした。
しかしトニーは、その手を振り払い手渡されたコンドームをナタリアの額にペタッと軽く叩きつけ載せるとベッドから離れた。
「ナタリア、俺、そんな気ないんだ。それに言ったよね?忙しいんだ」
トニーは乱れた髪を直して結びながらベッドから離れドアの鍵を開けて部屋を出て行った。
ナタリアはベッドの上で呆然とした。
ぇ?ええぇ?
はあぁ───────?
なによなによ!
着けてねってゴム渡したら、うん、ジェシカって言ったじゃない!
なによなによ!
一瞬、私を彼女だと思って、その気になったんじゃなかったの?
なによ!なによ!
なんなのよ────っ!
ナタリアは起き上がるとドアに向かって枕を投げつけた。
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