魔物観察日記

@nao74

飛竜のタマゴ

 -------魔物とは神秘だ。魔力の影響により通常の生物ならば考えられたない進化を遂げた生態はいくら観察してもしたりない。幼いころからその魅力に取りつかれた僕は魔物が大好きだ。彼らとの触れ合いによりこの命を落とすことになっても本望とすら言える。

 


「おい博士! 何を満足した顔をしてるんだよ! さっさと逃げるぞ!」


「あんたが自殺するのは自由だが、あたいらを巻き込むのは勘弁してくれぇ」


 やれやれ、外野がうるさいな。この貴重な飛竜のタマゴ、それに加えてタマゴを取り返そうと必死になる母竜の姿を見れることなんてそうそうないのだぞ?もっとこの機会を満喫すれば良いのに。


 出来の悪い生徒を見るようにさわがしい男女コンビに視線を送る。焦ったように騒ぎ立てる金髪の大男はエル。対照的に小柄で達観したような気だるげな女性はエス。今回の飛竜のタマゴの採取に関して護衛を依頼した冒険者だ。兄弟で冒険者をやっており、二人でお揃いのブラウンのパンツとジャケットがトレードマークらしい。

 何故か依頼を終えるたびに二度と僕の護衛は引き受けないと捨て台詞を吐いているが、毎回のように僕の札束ビンタの前にひれ伏している。腕は確かだし、真面目だが融通もきかせてくれるので個人的に気に入っているコンビだ。


 今回は珍しく山地の洞穴に巣を構えた個体が存在すると聞き、急ぎ2人を札束ビンタでやっつけて採取に挑んだのだ。ちょうど母竜不在のタイミングを見計らいタマゴの奪取には成功したが、帰りの山道を下っている最中に母竜に補足されてしまい今に至る。


 僕はため息をついてこちらへと凄い勢いで向かってくる母竜へ視線を戻す。やっぱ飛竜はかっこいいな。あの赤い装甲のような甲殻と、機能美を極めたような翼が特にいい。まあ実際は翼ではなく竜種特有の生態魔術で飛んでいるのだが。

 などと頭の中で飛竜について思考を拡げていると大きな荷物を担ぐようにしてエルの肩に持ち上げられた。


「くそっ。いつもの悪い癖が始まってる…… エス! 博士は俺が担いでいくから先に進んで車両の準備をしておいてくれ!」


「はいよアニキー。エンジン吹かしてまってるぜぇ」


「おっと。僕はタマゴを抱えているのだ。丁重に頼むよ。」


「そう思うなら自分の足で走りやがれ!」


 エスは急な山の斜面を転がり落ちるような勢いで先行し、エルが文句を言いながらも僕を担いで後に続いていく。エルの速度はエスに劣るとはいえ成人男性を担いでいるとは思えない速さで、さすがは冒険者と感心する。とは言え飛竜の飛行速度は60~70kmとかなりの速さであり、最初は小さかったその姿もどんどんはっきりと確認できるようになってくる。


「んー、これギリギリアウトかな? セーフかな? エル君はどっちだと思う?」


「っ! 黙ってろ!」


 無駄口を叩いている間にも飛竜は近づいてくる。とはいえ麓にもかなり近づいており、エスはもう止めてある車に乗り込んで準備をすましているようだった。

 飛竜が間近へ迫り、その鋭い爪先を振り上げる。これが仕留められる獲物の視点なのかと、つい見入ってしまう。すると唐突な浮遊感を感じて変な声が漏れる。


「うぇっ」


 エル君が走りこんだ勢いのまま荷台へ向かって飛び乗ったようだ。同時に顔から指先一つ分離れた位置を飛竜の爪が通過していくと、その瞬間を待っていましたと言わんばかりに車が走り出す。投げ捨てられた僕はあまりの急な加速で荷台から転げ落ちるかと思ったが、エル君が支えてくれたので事無きを得た。

 

 巣にはまだタマゴが残っており自身の縄張りから遠く離れる選択は取れなかったのか、飛竜は過ぎ去っていくこちらをしばらく見つめていたが、怒りの遠吠えをあげると自身の巣へと飛び去って行った。


「ごめんね。この子が大きくなったら巣に連れて行くから許してくれ。」


 母竜には悪いことをしたなと思いつつも自身の欲求を優先した僕は、このタマゴをしっかりと孵化させ大きく育った暁には、一緒に巣に遊びに行くことを約束をするのだった。


「……なあ博士。あんたが週1度は食べるって言ってた好物ってなんだっけ?」


 ひきつった顔でエル君がこちらを見て質問してくる。


「ん? 飛竜の温泉卵のことかい? 幼いころに食べてから病みつきでね。叶うなら毎朝食べたいよ。……君がそんなことを言うからお腹が空いてきちゃったじゃないか。このタマゴどうしようかな? 」


 食欲との葛藤に苛まれながら卵を見つめていると、エル君がドン引きした目で僕を見つめていた。


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飛竜ワイバーン

 討伐レベル 40

 保有スキル

 ・飛行 ・炎の息(オスのみ)  


 竜種の中でも最も有名な魔物。竜種の特徴であるブレスはオスのみが可能。体長の倍近くもある大きな翼をもつため勘違いされやすいが翼で空を飛んでいるわけではない。生態魔術と呼ばれる高い魔力を保有する魔物が生まれつき備えている特性である。

 性格は獰猛でオスよりもメスの数が多いという珍しい魔物である。メスは巣を構えて一生をその場で過ごすが、オスは特定の巣を持たずに飛び回り様々なメスとの間に子供を作る。

 成体の肉は筋繊維が硬く専門の料理人しか食材として扱えないが、タマゴや幼体の肉は非常に絶品で人気がある。

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