無価値の結界師 ~不遇クラスから始まる英雄譚~

アストラル

第1章 少年の旅立ち

第1話 無価値の烙印

リュカは澄み渡る青空を見上げながら、緊張に汗ばむ手のひらをぎゅっと握りしめた。今日は彼の15歳の誕生日。そして、それはこの世界において人生を左右する重大な日でもあった。


「クラス授与式か……」

リュカは幼なじみのアリスと共に村の中央広場へ向かう。広場には同じ年の少年少女たちが集まり、家族たちも見守る中、村の長老がクラスを授けていく。


この世界には無数の職業クラスが存在する。剣士、弓使い、鍛冶師、薬草師など、その種類は戦闘系から生活系まで多岐にわたる。基本的には1人1つのクラスしか与えられず、それがその後の人生を決定づけることになる。ごくまれに授けられる「ユニーククラス」は、特に希少で強力なものとされており、英雄となる者も多い。

またそれとは別に、この世界には魔法も存在する。職業クラスは与えられたものによって恩恵も違うが、魔法は学ぶことにより習得が可能となる。戦闘において使う戦闘魔法、生活において活躍する生活魔法、傷を癒したり病を癒すことも可能になる治癒魔法など、魔法もたくさんの種類が存在する。だがそういった魔法の中でたいていの人が使えるのは、基礎魔法と呼ばれるものだった。



「アリス=アスドランド!」

どちらが先に呼ばれるかアリスとリュカが話していると、アリスが呼ばれた。アリスは壇に上る時に緊張しているのか、いつもの朗らかな笑顔はなく真面目な顔をしていた。


長老がアリスに手をかざした。するとアリスの体はほかのみんなと同じく淡い光に包まれた。しかしそれは一瞬だった。ほんの一瞬、アリスを包む光が強くなったのだ。


職業クラス:聖女」


そう告げられた瞬間、広場はどっと沸いた。職業クラス:聖女とは、ユニーククラスまでにはいかなくとも通常の職業クラスよりも得る人は少なく、そしてものすごく重宝される職業クラスなのだ。


「リュカ、やったよ!」

「ああ!すごいよアリス」


「リュカ=ハルティ!」

アリスと話していたリュカは長老の声に呼ばれ、心臓が高鳴るのを感じながら壇上に上がった。先ほどのアリスの職業クラスの熱が収まらないのだろう。幼馴染でずっと一緒にいたリュカにも期待のまなざしが向けられた。リュカもまた、期待していた。


長老が手をかざすと、リュカの体が淡い光に包まれた。するとアリス同様、いやそれ以上の光がリュカの体を包んだ。そして長老の口からクラス名が告げられる。


職業クラス:結界師」


その瞬間、周囲がざわつき始めた。期待に満ちていた視線が、一転して困惑や嘲笑へと変わっていくのが分かる。


「結界師……? あれ、基礎魔法で使える『魔法障壁』と同じじゃないのか?」

「ユニーククラスって言っても、これじゃ意味ないだろう」


失望に満ちた声が聞こえるたびに、リュカは顔を俯かせた。


「リュカ……」

壇の下で見守っていたアリスが心配そうに声をかける。しかし、リュカは答えられなかった。自分でも分かっていた。「結界師」という職業クラスが何の役にも立たないことは過去の記録から分かっている。基礎魔法の1つである「魔法障壁」が結界と同じような役割を果たす上、ほとんどの人が使える魔法であり、わざわざ専用のクラスを持つ必要などないからだ。


期待していた未来が音を立てて崩れ去っていく。リュカは、広場からの帰り道、終始無言だった。アリスはそんなリュカを見つつも、なんと声をかければいいのか分からなかった。


その夜、家の中でリュカはひとり、拳を握りしめて悔しさを噛みしめていた。

「なんで……なんでこんなクラスなんだよ……!」


涙がこぼれるのを止められない。これからの人生に何の希望も見いだせないまま、リュカは眠れぬ夜を過ごすのだった。

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