大人になったら結婚しようと言った少年と再会したら第三皇子になっていました。しかも彼はドラゴンです〜ぽっちゃり少女が少年との約束のために努力した結果〜
空岡
第1話 ラダは白豚が好き?
「聞いたかよ。ラダってこの白豚のこと好きらしいぜ」
ラダくんとは、小学院の一年生から同じクラスで、私との接点といえば下校を共にするくらいだった。その下校も会話らしい会話なんてなく、ラダくんのことなんか私にはまるでわからなかった。だからこういった噂が立って、私はラダくんを避けるようになった。ラダくんまで悪く言われるのは耐えられなかった。ラダくんはなにも言わず、私と距離を作った。私が望んだこととはいえ、悲しかった。
「やーい、白豚」
「このブス。ラダも言ってやれよ」
「……あほらし。そんなことして楽しいわけ?」
ラダくんは今も私の味方でいてくれるらしく、私をかばった言葉だけで嬉しかった。けれど、ラダくんは私のせいでクラスから爪弾きにされて、いや、一年生のときから二年生になった今まで、ラダくんはいつもひとりだった。それでも私にだけは心をひらいてくれているようで、時折一緒にお弁当を食べた。
この関係が終わりを迎えたのは、私が転校することになったことに起因する。
「ライラ。大人になったらけっこんしよう」
「ラダくん?」
「俺じゃ……嫌か?」
「ううん。私、私、ラダくんに相応しい女の子になるね」
引越し当日、ラダくんが私の家まで来てくれて、気休めでもそんな言葉をくれたから、私は一念発起して減量したし、淑女のたしなみだって習得した。
十年の月日が流れ、私は十八になった。もうとっくに周りは結婚する年齢だけれど、私はまだ結婚していない。ラダくんのことが忘れられない。いや、私はただ、人が怖い。痩せた私には、沢山の友達が出来て、沢山の婚姻の申し出があった。太っていた頃に私をいじめた子達さえ、私を見る目が変わった。それが気持ち悪く醜悪で、私の心はやっぱりラダくんに捕らわれたままだ。
「仕事でもと思ったけど」
私の父はしがない領主だから、結婚しないなら働かねばならない。けれど、女なんてものは力仕事もできなければ、結婚出産で仕事を辞める。つまり、働き口が見つからない。
「はー、料理しか私には無いのに」
減量するに当たって、私は数多の参考書を読んだ。世界中の料理や栄養の文献だ。私の頭の中にはそれらが詰め込まれている。自分でも意外だったのは、私に料理の才能があったことだった。初めて包丁を握った時は下手だった手つきも今は様になって、なにより、私は見ただけでレシピの味がわかってしまう、そんな特技があったのだった。
「あそこの料理屋……市内に何店舗も展開しているし、味の改良の余地があるのよね」
ぶつぶつと呟きながら歩く。考え事をしていたせいで、前を見ていなかった。人にぶつかり、転びそうになるところを、そのひとに支えられた。
「す、すみません」
「前見て歩け、っての……」
私を支えた紳士を見上げる。見間違うはずがない、白い髪に青い瞳。服は上等なものを着ているけれど、面影がある。会いたかった、ずっと。
「ラダくん?」
目に涙が溢れてくる。ずっと探していたんだよ。会いたかった、忘れたことなんてなかった。しかし、
「誰オマエ。知らね」
「……! わ、私……ライラ」
「だから、知らないって」
後ろから、帯刀した兵士が走ってくる。ラダくんが振り向き、手を挙げて静止した。
「いい。これは無害だ」
しかして、私たちの運命が回り始めるのだった。
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