死を味わう

猫又大統領

能力

 月明かりの真夜中。静寂に包まれた病院に僕はいた。夜の病院といえば一種の恐怖の象徴のようなものとして扱われる。でも、清潔さと静寂さは僕を魅了する。それに加えて、死というひんやりとする気配が僕を特別引きつけた。こんなところで死んでみたい。静寂と清潔の中で僕は命を終わりにしたい。


 僕に用意された病室は料金が高価な個室だった。内部は高級ホテルの部屋のような装飾で、備え付けの大きい解像度の高いテレビ。壁には埋め込まれた有名メーカーの音響も設置してある。冷蔵庫の中身は食べ放題で注文もできた。それにベッドの心地よい弾力に加えてシーツの肌触りは極上。心を満たされ、眠りにつく日々だった。


 それも本日でおしまい。

 そう、今すぐ終わる。

 この夜、この場所で、僕は死ぬ。


  病室の個室の前で足音が止まった。そして、針の穴を通すほど慎重に次第に扉が開かれた。

薄暗い中をライトを手に持った人影は迷いなくベッドに向かうと、大きく右腕を天井に挙げた。振り上げた拳辺りには、月明かりを冷たく反射する銀色の刃物が不気味浮かぶ。


 そろそろ頃合いだ。僕はそう確信して部屋の明かりを灯した。そこには近隣で発生した男性3名の殺傷事件の容疑者が立っていた。


「やっぱりあなただったんですね。医院長」

「初めから私だと分かった? 私の病院の関係者に犯人がいるといって捜査協力を求めてきたのはなぜだ!」

 そういって病室の隅に立っている僕と、僕の両脇にいる捜査員のふたりをじろりとにらんだ。


「ああ。お話していませんでしたね。僕の認定級特殊能力の話を」僕がそういうと病院長は驚いていた。捜査補助として捜査員について回っていた僕が捜査員よりも先に発言をしたのだから。


「お前、お前は能力者だったのか。で、で、でもお前は国から公認されていないだろう!」

「ええ。未成年者は国から公認はされない。例外もあるようですが。そして僕の能力は犯罪捜査に向いていることもあって非公認で捜査に参加しています。犯罪者に存在が知られると厄介ですから」

「な、なんだ? 犯人が誰か分かるような能力者は世界中が求めているが、いまだ見つかってないはずだ!」

「そうです」

「ですから、僕の能力は、自分が殺される未来が見えること。能力名は”末期の記録”」

「そんな、同じじゃないか。犯人が分かる能力じゃないか!」

「いえ、違います。人に殺意を抱かせないといけない。まあ。辛いのは僕だけだから受け取り方はどうぞご自由に」

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死を味わう 猫又大統領 @arigatou

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