トリの赤ちゃん返りと七草粥

!~よたみてい書

第1話

「真・七草粥できたよー」


 桃子がキッチンの上に置かれた鍋の中を、おたまでかき混ぜながらリビングに向けて声をかける。


「桃子、朝ごはんお疲れピヨ」

「……え、あ、うん。……ピヨ?」


 トリはにこにこ笑顔を浮かべた。


「どうしたピヨ? 早く食べようピヨ」

「え、なんで語尾にピヨがついてるの?」


 桃子は怪訝な表情をトリに向ける。


 トリは笑みを崩さずに続けた。


「いつも通りピヨ。ピィ、ピィ。細かいこと気にして、桃子、疲れてるピヨ?」


 桃子は口をポカンとさせる。


「……あれ、私、寝不足なのかな。幻聴?」

「大変ピヨ。栄養不足ピヨ。早く七草粥食べるピヨ」

「うん、そうする……」


 桃子は自分の額に手を当てながら、神妙な面持ちを浮かべた。

そして、鍋の中身をおたまですくい、お椀に盛り付ける。

それからもう一度、別のお椀にそそぐ。


 桃子は二つのお椀を抱えてリビングの机に持っていく。


 トリは椅子に座りながら、両翼を羽ばたかせながら声音を上げる。


「わぁ、美味しそうなかおりピヨ」

「美味しいよ。なんたって、今年は、『真』仕様だからね」


 桃子は両手を腰に当て、威張るように胸を突き出す。


 トリはお椀の中を凝視しながら、不安そうに言う。


「あれ……その自慢の粥、なんだか緑色に濁ってるピヨ」

「それがミソなんだよ。味噌は使ってないけど」

「え、どういうことピヨ?」


 トリはゆっくりとお椀から桃子の顔に視線を移す。


 桃子は片方の口角を上げながら言う。


「ふふん、今回は、使用した七草を三倍にしてみました」

「どおりで白色成分が足りないと思ったピヨ」


 トリはわたわたと身体を椅子の上で揺らす。


「見た目は置いといて、食べてみてよ」

「ピィ……」


 トリはお椀の中の緑粥をじっと見続ける。


 桃子は大きなため息をつく。


「大丈夫だから、安心して食べて」

「違うピヨ」

「え?」


 トリはもじもじしながら口を開く。


「食べさせてピヨ」

「なんで突然?」

「食べさせてほしいピヨ」


 トリはつぶらな瞳で桃子を見つめる。


 桃子は苦笑しながら、トリの目の前に置かれた小おたまを手に取る。

そして、トリの眼前のお椀に小おたまを入れ、粥をすくい上げ、トリの口の中に持っていく。


「はい、あーん」

「んぁ~ん、ピヨ」

「そこにもピヨつけるのね」


 トリはパクッと口を閉じる。


「……うっ」


そして、目を見開き、数秒ほど身体を硬直させた。


 桃子は慌てながら言う。


「え、え、美味しくなかった!?」

「うんまいピヨ! 美味しいピヨ!」


 トリはほっこりした笑みを浮かべる。


「お米の炭水化物とお水の素朴の味じゃなくて、しっかりと七草の自然の味が感じられて、すごくいいピヨ!」

「えへへ」

「美味しい七草粥作ってくれてありがとうピヨ!」

「んもー」


 桃子は照れ笑いを浮かべながら、トリを両手で抱え上げる。


「褒めても何も出てこないよ」

「ピィ、ピィ」


 桃子はトリをギュッと抱きしめた。

それから、トリの頬に自分の頬を当て、こすりつける。


「でも、ありがとね」

「ピヨ、ピヨ」


 リビングに七草が生い茂っているかのように、穏やかな空間が出来上がった。

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