消えた家族写真
彼女は実家の物置を整理している最中、埃をかぶった古いアルバムを見つけた。幼少期の家族写真がぎっしり詰まった懐かしいアルバムだった。
「あの頃は楽しかったな……」
ページをめくるたびに、懐かしい思い出がよみがえる。誕生日会、運動会、家族旅行――だが、ある一枚の写真に目を止めた時、彼女の心に不安が広がった。
それは家族全員で撮ったはずの集合写真だった。だが、そこに写るのは父と母、兄の三人だけ。彼女自身の姿が、どこにもなかったのだ。
「どうして……?」
他の写真を確認しても、彼女の姿だけが消えている。見間違いかと思い、さらにページをめくる。だが、どれだけ探しても彼女の痕跡はどこにもなかった。
その夜、不安を抑えきれず、彼女は兄に電話をかけた。
「ねえ、アルバムの写真がおかしいの。私が写ってないのよ」
兄は一瞬黙り込み、困惑した声で返した。
「……お前、何を言ってるんだ?アルバムには最初から俺と父さんと母さんだけだろ?」
「そんなはずない!私はそこにいたはず!」
兄はそれ以上何も言わず、電話を切った。
彼女はさらにアルバムを調べた。その中には、彼女が描いたはずの絵や、学校の行事の記録もあるはずだった。しかし、どれも奇妙なことに、彼女の存在が完全に消えていた。
翌朝、彼女は昔通っていた小学校を訪れた。職員室でアルバムの写真について尋ねると、教師は不思議そうな顔をした。
「確かにこの写真はありますが……その席、空いていますね。誰かがいたんですか?」
「私です!」
必死に訴える彼女に、教師は首をかしげただけだった。
その日の夜、自宅でふと鏡を見ると、自分の姿がいつもと違うように見えた。輪郭がぼやけているような、存在感が薄れているような気がする。
彼女は震える手でアルバムを閉じた。そして、気づいた時には、アルバムそのものが目の前から消えていた。
「私は……本当にいたの?」
翌日、彼女の姿を覚えている人間は、誰一人いなかった――。
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