第2話友達との朝と美術の時間

  いつもより教室のドアが重く感じる。有紀さんが僕のことを悪く言っていたら、クラスのみんなからどんな目で見られるかすごく怖い。

 ただでさえあまりみんなから人気のない僕が、人気者の有紀さんに告白したのだからそれがもっと悪いイメージになってるかもしれない。そんな僕が、教室に入るのをためらっていると彼が来た。

 「龍太郎!おはよ。今日も今日とて普通の顔だな」

 「おはよう。朝一でなかなかの悪口なんて、喧嘩売ってんの治?」

 「すまんすまん。悪い意味じゃねえからよ、そう怒んなって。いつもと変わらずお前らしい顔だってこと」

 それもそれでどうなのだろうか、いつもと変わらず面白くないとも捉えられるが治に限ってそんなことを言ってくるわけもない。

 彼は、九条治僕が中学校から仲良くさせてもらっている男友達だ。人当たりがよく誰からも慕われている。ちなみにサッカー部のキャプテンもしている。

 僕よりも女子からモテるようで、告白されて断ったという話をよく聞かされる。

 挨拶をしながらシャツをパタパタとしている。熱いのだろうか。

 「どうしたんだよ教室に入らないで。なんだーまた笑梨のことでも怒らせたのか?(笑)」

 「そうではないんだけどすごく入るのが怖くて。治先に入ってくれないか」

 治が一緒ならまだ楽には入れる気がしたが、結局教室の中の状況は変わらないが気休めだにはなると思う。

 治は、「どうしたんだよー」と言いながら普通に僕のお願いを引き受けてくれた。

 治が教室に入ると共に、僕も入ってみたがクラスの端っこで固まっていた女子たちから冷ややかな眼差しと陰口のようなものが聞こえてきた。治は、気づいていないようなので助けを求めるのはやめておいた。

 僕に向かっての陰口は、聞いたことがなかったがそれは、多分僕にみんなが興味がなか

っただけで有紀さんに告白した僕に不信感や軽蔑する女子が出てきたんだろう。

 わかってはいたがここまで心に来るとは、思っていなかった。

 「おはよ~龍太郎君、やっぱり少し悪い方向に動いてるね。何人かは、私たちに聞いてきたからそこは弁解しておいたから。あとの女子は、無視していいと思うよ」

 片手にスマホを持ちながら僕に挨拶をして来てくれたのは、この前あった利香さんだった

 「 おはよう利香さん。うん、なんか言われてる感じがしたからわかってる。流石に、文句を言ってくるような人はいなくて安心したよ」

 僕の席の前の席は、利香さんだしその隣は、治だし。栞さんは、前回の席替えで、利香さんを含めて僕たちと離れていやがっていた。

 「まあ私もなんかあったら協力するからさ安心しなよ。ていうか笑梨は?」

 利香さんは、大人びていて頼りになる数少ない友人だ。

 「朝迎えに行ったら、起きたばっかで後から行くってさ。おばさんが今日は、朝から仕事みたいで起こしてもらえなかったんだって。もうすぐで来ると思うけど」

 彼女のことは、毎朝迎えに行っておんなじ時間に登校するのだけどたまに、今日のように起きてなくて遅れてくることがある。

 毎回起こしに行くとパジャマで出てきて「先に行ってて!」と言われるので僕も一人で登校する。

 今日の授業の準備をしていたら、ドアが開いて息を切らして女子が入ってきた。

 「セーフ、間に合ったー!。おっはよーリュウ君に利香に治君。今日も今日とていい朝を迎えられたよ」

 「おはよう」

 「おはよ~」

 「おはよ。今回もなかなか元気な登場だったな(笑)」

 軽く挨拶を交わして、僕の隣りの席である彼女が座って準備を始めた。

 そういえば栞さんを今日まだ一回も見てないけどいつものように遅刻だろうな。

 その後は、いつものようにたわいもない会話をして楽しんでいたら時間は、すぐに過ぎて行って担任の先生が入って来てホームルームが始まった。

 「欠席はー栞が来てないな、まあどうせ遅刻だろうな。今日の日程は、特に何もないな。あっそうだ図書委員の龍太郎は、放課後図書室に集合らしいぞ。これで朝ホームルームを終わります」

 今月は、図書委員の仕事はないはずなのに放課後に、呼ばれるなんて何かめんどくさいことになるような気がした。しかも普通クラスには、二人の図書委員がいるのだが僕のクラスのもう一人は、不登校で学校には滅多に来ない。

 ホームルームが終わってそんなことを考えながら外を眺めていると治に次移動教室だと呼ばれて準備をして美術室に向かっていた。

 治は、歩くとき外を見ながらも僕が話し始めるとこっちを向いてちゃんと話を聞いてくれる。

 「今日の授業何するって言ってたっけ」 

 「確かペアになって、お互いの顔を描くんじゃなかったか?。それだったら俺が描くの利香かあいつ髪長いから描くの大変そうだなぁ」

 「でも治絵を描くのうまいじゃんか。僕なんて、絵を描くの苦手だから誰を描くにして

も難しく感じちゃうよ」

 治は、大概何でもできる。スポーツも勉強も絵を描くことさえ容易くやるんだから、そんな奴が僕と仲良くしてるのを周りは、驚くことが多い。

 治のことは、信用しているし彼からも信用されているんだと思っている。大抵のことは、彼に何でも話せるし彼から助けを求められたらそれにこたえたいとも思っている。  

 「ところで龍太郎お前さ有紀となんかあった?。なんか有紀が、お前のことを悪く言ってんのさっき聞いたんだけど」

 まさか治にまで知られるなんて。いやでも治は、本人から聞いた訳じゃないから疑ってはないんだろう。ただ気になっただけなんだろうから言ってもいいだろう。

 有紀さんは、周りに聞こえるぐらいに声を大きくして話していたのならある程度の人には、もう知られているかもしれない。

 「実は、有紀さんに告白して振られたんだけど、なんか僕が悪口を言ったってことになったみたいで特定の女子から冷たい目で見られてるんだ」

 治に隠し事をするのは、友達として申し訳ないと思い話すことにした。

 「は?。なにそれ。なんで龍太郎が悪くなってんの、それおかしくね。言えばいいじゃん噓で人のことを悪者にして楽しいかって」

 「そんなこと言っても無駄だよ、僕よりも有紀さんのほうがみんなから人気もあるし、それよりも治たちが信じてくれているのならそれでいいよ」

 そうだ、好きだった人からの悪口より友達が僕を信じてくれているのならそれでいいじゃないか。何を気にする必要があったというのだろうか。

 「そうか、まあ龍太郎がいいのならそれでいいか。そして俺は、いつまでもお前の見方だぜ!」

 ニシシと笑って、そう言ってくれた治といつまでも友達でありたいと思った。

 治は、表情に出やすいけどそこがいいところなのかもしれない。

 美術室に行くまでの廊下には、階段があるのだが僕と治が通ったときちょうど有紀さんのいる女子グループがいた。一瞬目が合った有紀さんから、睨まれたような気がしたけど治を見るとなぜか治も彼女らを睨んでいて逆に怖い。

 「気にすんな。あんなん無視しとけ」  

  「わかってる、ありがとう」

 治が睨んでいたのは、僕のために怒っていたからだろう。そんなことしなくていいのにとも思ったが、これで彼女たちが悪口を控えてくれたらいいのだけれど。

 そのあと美術室に入って授業が始まるのを待っているとさっきの女子が入って来て僕のことを指さしながら何か言っている。もっとひどいことになっていないだろうか。

 そんなことを思いつつ、美術室の授業が始まった。

 「リュウ君よろしくね!かっこよく描いてあげるから、私のことかわいく描いてね」 

 彼女がウインクをしながら僕に話しかけてくるので、少し顔を見て絵を描く用の鉛筆を削りなおした。

 「まあできるだけ頑張って見るよ。期待はしないでね」

 「仕方ないなぁ」と笑いながら言って彼女は、僕のことを描き始めた。僕も急がないとと思い彼女の顔をまじまじと見てみるが、描きやすくはあるパーツは整っているので他の人をかくよりかずっとましだ。

 数分間集中して描いていると、ある程度形ができてきた。

 「ねえねえリュウ君かわいく描けてる?」

 そう言って彼女は、僕のスケッチブックを覗いてきた。僕のスケッチブックは、彼女の顔半分を描き終わっているので自分の中ではなかなかの出来とスピードなのだが。

 「うわぁ、リュウ君もなかなかの出来だね。でももっと私はかわいいのに。まあいいか私のやつも見てー」

 彼女が見せてきたスケッチブックには、まあまあ上手く描けている僕の絵が書かれていた。彼女の絵がうまいので自分のが少し恥ずかしい。

 というか彼女には、なかなか自分の顔に自陣があるようだ。人の描いた似顔絵にもっとかわいいのにって逆にすごいことを言ってきているような気がした。

 「おっとお二人さん、なかなかの絵ができてるじゃないですか。私は、治の顔を描くのが難しすぎて諦めたいよ」

 僕たちの前の席で、治の絵を描いていた利香さんが話しかけてきた。そして確かに、治の顔なのだろうけどバランスが悪い絵が描かれていた。

 いつもは、自分のペースで作品を作る利香さんでも人の似顔絵は、苦手だったようだ。治の首がアスパラガスぐらい細くなっている。

 「龍太郎助けてくれ~利香の絵が下手すぎるよ」

 「逆に治は、絵を描くのうますぎるでしょ。ほとんど鏡を見てるみたいだもん」

 「だろ?。なかなかに利香を綺麗にそのまま描けてるだろ」

 この二人もそれなりに、仲がいいように見える。治の絵には、利香さんのサインが利香さんの絵には、治のサインが書かれていた。

 四人で絵を見せ合いお互いの絵を笑っていると「ばん!」とドアが開いた。

 僕は、その大きすぎる音にびっくりしてドアを見ると堂々と立っている栞さんがいた。「よかったー間に合った」

 「「「間に合ってねえよ!」」」とクラス全員がツッコミを入れたが栞さんは、一時間目に間に合えば遅刻じゃないということらしい。

 栞さんは、笑いながらこっちに来て利香さんと少し話しに来た。

 利香さんと栞さんが話しているのを見て僕は、少し気になったことがあったそいえば栞さんが遅刻していたのなら、いつもの栞さんとペアを組んでいる人は、どうしているのだろうかと思ったのでいつもの栞さんが座る席の隣を見ると、一人の女子がいた彼 。

 女は、いつもの一人で本を読んでいてよく図書室にきているのを見かける。

 「ねえあの栞さんの隣りの女子名前何だっけ」

 名前が一向に思い出せなくて僕は、、利香さんに聞いてみることにした。

 「えっと確か一花さんじゃないっけ。私も今年度の初めに話しかけたんだけどあんまり話すのが得意じゃないらしくて、いっつも本読んでるよね。気になるの?」

 気にならないと言えばうそになる、一花さんの読んでいた小説は、僕が前から気になっていたのだが売られていなくて読めていないものだった。

 そんな一花さんのことは、前々から気になっていたのだが、話しかけに行くのも気まずいのでやめていた。

 僕が困惑した顔をしていたら利香さんがなるほどっといった顔でうなずいてくるのでもっと困惑したのだが…。

 「先生ー栞が、私たちの近くがいいってだからペア事後ろに来ていい?」

 「いいよ栞さんのペアの人がいいのならね。一花さんいい?」 

 「は、はい」

 利香さんがいきなり先生に、移動していいかを聞き一花さんと栞さんは、空いている僕たちの後ろの席に来た。

 一花さんは、黙って栞さんの絵を描いている。栞さんは、利香さんと話しながら絵を描いているようで一花さんと一言も話をしていない。

 一花さんは、黙々と栞さんの似顔絵を描き進んでいた。ずっと動いている栞さんを描くのは、さぞかし難しいだろうな。

 「えっ一花ちゃんめちゃくちゃ絵うまいじゃん!。美術部だっけ?」

 さっきまで集中して絵を描いていた彼女がいきなり一花さんの絵を見て声を出したので一花さんの周りの僕たちは、気になり少し見せてもらった。

 一花さんの絵は、栞さんの顔の特徴をしっかり捉えていて栞さんのりりしさもちゃんと出ている。

 「めっちゃ私じゃんもしかしたら、治よりうまいんじゃね」

 いつも人の上に立とうとする栞さんが、人の絵をほめるなんて今までにないびっくりしたことだ。

 「ありがとうございます。美術部ではないですが絵を描くのが好きで…」

 周りの僕たちの声が大きすぎて一花さんの声が小さく聞こえたけどさっきまでとは違い少し笑っているようにも見えた。

 美術の授業は、いつもなら一時間で終わりなのだが今日は、制作活動ということもあり二時間続いて授業が行われる。

 一時間目が終わって十分間の休みに入った仲良し女子三人は、おしゃべりをしていて治は、寝ている。一花さんは、持ってきていた小説を読み始めた。

 暇になった僕は、トイレに行こうと思って廊下に出るとあまり話したことのない女子四人組がいた。

 「あんたさぁ有紀のこと何泣かしてんの?。男として恥ずかしくないわけ」

 いきなり言われたことに驚いた、ありもしないことを仲がいいだけでここまで信じるものなのだろうか。

 僕は、ここで弁明しても無駄だと思ったので黙っておくことにした。黙っていたのがまさか悪い方向に行くなんて思いもしなかったからだ。

 「黙ってるってことは、本当なんだ。あんたさぁ有紀を傷つけたんだから何されても反抗できないよな!」

 その時お腹のあたりに衝撃が走った。僕は、後ろに倒れて尻餅をついて前を見たときに全てに気づいた、今目の前にいるクラスメイトに蹴られたんだ。状況を把握している間も蹴られた所が痛い、生まれて初めての経験だった、男子からではなく女子から蹴られるなんてしかも今までにないぐらい痛い。

 その後知ったことだが僕を蹴った女子は、キックボクシングを習っているらしいそりゃ痛いわけだ。

 僕は、蹴ってきた女子たちがいなくなるのを見て、トイレに行き服の汚れを落としてから美術室に戻った。美術室に戻ると朝よりも僕を睨む人が増えた。その中には、女子だけでなく男子もいた。

 その日の午前中の授業は、誰とも話すことができなかった。治や栞さんたちが話しかけてくれたが今回ばかりは、話す気になれなかったので避けていた。みんなは、僕のことを心配してくれているようだったが、気にするほど僕に余裕がなかった。

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