鏡の中のグリムノーツ 炎の女優シェイン
森康雄
第一章 隠れた才能の発見
シェインの家は、地元の演劇クラブの近くにあった。毎週土曜日の朝、彼女はそこへと足を運び、静かにその日の練習に臨んでいた。彼女は決して目立つタイプではなく、ほとんどの時間を練習の隅で過ごしていたが、今日は何かが違った。
「シェイン、今日は特別な日だ。『ロミオとジュリエット』の一人芝居を誰かがやってくれないかな?」演出家のモリガンが全員に問いかけた。部屋には緊張が走り、誰もが顔を見合わせた。
シェインはふと立ち上がり、小さな声で「やってみます」と言った。これが彼女の隠れた才能が初めて光を放つ瞬間となる。
モリガンは彼女の勇気を評価し、「よし、じゃあ始めてみよう。舞台は君のものだ」とエンカレッジメントを送った。
シェインは深呼吸をして、舞台の中央に立った。観客席にいた他のクラブメンバーが見守る中、彼女はジュリエットとしてのセリフを語り始めた。
「おお、ロミオ、ロミオ!どうしてあなたはロミオなの?否定して、父を捨てて。もしそれができないならば、私を愛して、そして私がもうキャピュレットでなくなるようにして。」
彼女の声は初めは震えていたが、徐々に力強さを増し、情感が溢れ出した。演技に熱が入るにつれ、彼女は完全にジュリエットになりきっていた。
「しかし、私たちの愛は、夜の花のように、暗くても美しい。」
部屋の空気が変わり、彼女の演技に引き込まれる者が増えていった。シェインの演技がクライマックスに達する頃、モリガンは目を輝かせていた。
演技が終わると、静けさが部屋を包み込み、次第に拍手が鳴り響いた。シェインは照れくさそうに微笑みながら、感謝の意を示した。
「素晴らしかったよ、シェイン。今日、君は本当にジュリエットだった」とモリガンが賞賛した。
シェインは自分でも驚くほどの演技ができたことに喜びを感じながらも、これが彼女の隠れた才能が表面に現れる始まりに過ぎないことを感じていた。
公演当日、シェインは舞台裏で緊張の面持ちで待機していた。地元の劇場は満席で、多くの期待が彼女にかかっている。舞台の照明が調整され、観客のざわめきが徐々に大きくなる中、モリガンがシェインの肩を軽く叩いた。
「大丈夫、君ならできる。今日の夜は君のものだ」とモリガンが励まし、シェインは深呼吸をして舞台へと足を踏み出した。
しかし、彼女がジュリエットの最初のセリフを述べ始めたその瞬間、劇場全体が突如として暗転した。一瞬の静寂の後、観客席からは小さな悲鳴や囁きが聞こえてきた。
シェインは一瞬戸惑ったが、すぐに落ち着きを取り戻し、目を閉じてセリフを続けた。「星よりも明るく輝く私の愛よ、この暗闇の中であなたの声だけが私の光。」
舞台裏では、テクニカルスタッフが照明のトラブルに対処し始めていた。数分後、照明が徐々に戻り、シェインの姿が再び明るみに出た。
彼女は一瞬も動じることなく、演技を続けた。このトラブルが彼女の集中力をさらに高め、観客は彼女の勇敢な対応に心を打たれた。
「暗闇の中でも、愛は私たちを導く光となるのです」と彼女が情熱的に語り終えると、会場からは盛大な拍手が起こった。この瞬間、シェインの才能が全ての観客に認められたのだった。
公演後、舞台裏でモリガンが彼女を迎え、「シェイン、君の演技は本物だ。今夜、君はただの障害を乗り越えたのではなく、それを芸術に変えたんだ」と感動しながら語った。
シェインは自分の成長を実感し、自信を深める一方で、今後の挑戦に向けて更なる努力を誓った。この夜、彼女はただの演技者から真のアーティストへと変わり始めていた。
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