霊媒師探偵は死を覗く

水の月 そらまめ

第1話



 ある二人に、『君はいつまで縛られているつもりだ』と言われた。同じ言葉なのに、こうも違う。



 丑三つ時が近づく真夜中。

 私たちが歩いていたら、子供達が遊んでいた。暗がりを照らす電灯は明るく。足場の悪い場所をそれなりに照らしている。


 私は友人と一緒に歩いていて、「楽しそうだね」と会話をした。

 彼は子供達と知り合いみたい。

 手を引かれていく姿を見ながら、私は溶け込めずにいた。けれど、どこか楽しい。



 子供達の盛り上がりは最高潮。


 混ざっている友人も楽しそうだ。……なのに、私は何故か、胸がザワザワと落ち着かなかった。

 私はどこかでこの光景を知っている。



 車の止まらない廃駐車場。そこへいくための急な坂道、駐車場に伸びるパイプ、行かせまいと立つガードレール。コンクリートを突き破った雑草。駐車場から伸びる塔のような場所。

 私もよく遊んだ記憶がある。そして、怪我をした記憶もある。


 ここは少し危ない場所だから、気をつけてね〜なんて。私はただ眺めていた。



 いつの間にか、子供達が塔に登って遊んでいる。

 キャッキャと盛り上がっている子供達の中で、二人の声がイヤによく聞こえてきた。


「お前そっからジャンプして着地してみろよ!」

「え〜〜〜っ、じゃぁ行ってみようかな〜っ!」


 カンッ!

 いやそこ結構高かったよな、と頭によぎった瞬間には。少女が塔の手すりのような場所に足を乗せ、飛び降りたところだった。

 提案し、楽しそうにしている男の子が、落ちていく少女の様に釘付けになっている。


 私の立っている場所より少し高い塔。高低差5メートルはある廃駐車場へ。


 ドンッ!!




 いや、待てよ。と私は無事を確認するように、白いガードレールの手前から下を覗く。


 笑顔だった。

 女の子は地面に叩きつけられたかどうかは知らないけど、笑顔で空を見ていた。

 広がる赤黒い血溜まり。


 放り出した手足が自然で、イタズラのようにも見える。


 広がって、広がって。赤黒い花が。中心の笑顔が怖くて。

 私は数歩下がった。



 子供達はざわめき、坂道を通って廃駐車場へ走って行っていく。そこには友人の姿もいる。


 私は震える手でスマホを取り出すと、画面に流れ出す読めない羅列に困惑した。

 落ち着こうと段差に腰掛けて、スマホを凝視する。


 ふと、隣に男性がいた。

 もっさりとした前髪の男がおにぎりを食べている。彼はじっと私のことを見ていたようで、目が合うと口を開いた。


「どうも」


「ど……」


 は? と意味がわからず困惑した。

 私はよくわからない羅列の浮かぶスマホを両手で持ちながら、画面を凝視する。すると、通話の機能に画面が変わった。

 すぐに病院へ繋がる番号をタップする。



 私はいつものように。なんとか伝え終わるとその場に座り込む。廃駐車場の方は、見る気にもなれない。

 男が何か言っていた気がするけど、友人の呼びかけに私は顔を上げる。


摩衣まい! 救急車は!?」


「……呼びはしたよ」


 彼が霧へと消え。

 霧が私を覆い隠して、意識が薄くなっていく。


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