36 救出

「アル……カ……?」


「ガラム……?」


 扉を開けると、そこにいたのはお腹に傷と痣を付けられたガラムだった。

 そしてすぐそばには貴族っぽい恰好の男が立っている。


 間違いない。

 あれをやったのはあの人だ。


「な、なんだお前は!? ここは僕の屋敷だぞ!?」


「どうでもいいよそんなの」


「ッ!?」


「貴方がガラムを傷つけたんでしょ?」


 明確に、彼へと殺意を抱きながら距離を縮める。


「は、ははっ……何が悪いと言うんだ。彼女はもはや僕のもの。どういう風に扱おうが、僕の自由だろう?」


 うーん、思ったよりも根性があるみたい。 

 かなり強めに圧をかけたはずだけど、まだそう言う事を言えるんだね。

 それなら……もう少し派手にやっちゃってもいいかも。


「アレクシス様! 屋敷に侵入者が……!」


「あっ」


 ゆっくりとを聞くつもりだったけど、追手が来ちゃった。

 こうなったら仕方ない。


「ガラム、行くよ!」


「えっ……」


 ガラムの手足に繋がれている拘束具を引きちぎり、そのまま彼女を抱える。

 そして部屋の窓を割って外に出た。

 所謂ダイナミック脱出と言うやつだけど、ぶっつけ本番で成功して良かった。


「ガラム、痛いかもしれないけど少し我慢しててね」


 見たところあの拘束具に何か仕掛けてあったっぽいねこれ。

 ガラムがあんな貴族ごときにこんなに痛めつけられるはずがないし、弱体化でもさせられてたのかも。


 だとするとあまり激しく動かしちゃ不味いだろうし、早く安全そうな場所で回復してあげたいけど……。

 

「おい! 早くアイツらを追うんだ!! 何としてでも屋敷の外に出る前に捕らえろ!」


「承知いたしました!」


 割った窓からあの貴族の部下らしき人達がどんどん出てきてる。

 流石にこの状況だと安静にもしてられなさそう。


「フランメ! ビュートス!」


「うわっ!?」


 それどころか後ろから魔法を撃ってきてるよ。

 一応は婚約相手のはずなのに、随分と雑に攻撃して良いのかな……ガラムにも当たりそうなんだけど。


 うーん、見たところ皆黒いローブを着てるしあれがソニアの言っていた人たちなのかな。

 けど、それにしては術者としての腕が微妙だ。

 あれでソニアとガラムの二人を欺いたとは到底思えな……


「ドスビアス……!!」


「うぉぉっ!?」


 突然後方からめちゃデカい闇の塊が飛んできた。

 びっくりした……一番前にいた人の魔力量が突然増えて、それどころか上級闇魔法を使って来るなんて……。

 使用出来る人自体物凄く少ないはずなのに……って、あれ……?


「うぐっ……がはっ」


 たった今魔法を発動させた人が血を吐いて倒れ込んじゃった。

 けど別にあの魔法にそんなデメリットがある訳じゃないはず。

 もしかして……あれも魔道具による何かなのかな。


「次の担当は前に出るんだ!」


「承知! ボルトニグ!!」


「うわあぶないっ!?」

 

 放たれた光の塊をスレスレで避ける。

 すると、また発動者は倒れてしまった。

 そしてよく見ると後ろの方の人が倒れた人から何やら水晶のようなものを回収している。


 うん、やっぱりそうみたい。

 魔道具の類で無理やり使えない魔法を発動させているっぽいね。

 けどその代償は大きく、見た感じ体への過剰な負荷ってところかな。


 なら話は早い。

 要するにあの人たちは魔道具を使いまくってガラムを攫ったんだ。


 確かにガラムとソニアは滅茶苦茶に強いけど、流石に二人だと人海戦術には勝てない。

 偶然……いや、この感じだと恐らくガラムが少人数で行動するのを待ってたんだ。

 そして、昨日ついに決行した……ってことかな。


「アル……カ、後ろ……!」


「どうしたのガラム……って、何あれ……?」


 ガラムの声に従い後方を確認すると、何やら巨大な魔法陣が生み出されていた。

 そしてその中心から徐々に魔獣が姿を現している。


 間違いない。

 人攫いのアジトで見たあの魔法陣と同じ、召喚魔法だこれ。


「団長! 流石にこの魔道具は不味いですって……!」


「仕方のないことだ。奴らを捕えるにはこれしかあるまい」


 何やらもめているみたいだった。

 もしかしてこの召喚魔法、普通に使っちゃいけない類のそれなんじゃ……。


「ははは……! 出でよ黒龍! 今こそ顕現し、全てを破壊するのだ!」


 と言うか、あれ完全に不味いやつだよね。

 どう考えてもあの貴族の命令を無視してる気がするんだけど。


「だ、団長! 街中で召喚するなんて、一体何を考え……て? ぅぁっ……ど、どうし、て……」


 あ、部下っぽい人が団長らしき人に首を斬られた。


「ふむ、こうなってはもはや騙る必要もあるまい」


「なっ!? お前……団長では無いな!?」


「何を言う。私は正真正銘、アレクシス傭兵団の団長だとも。もっとも、それはこの魔道具を手にするための偽りの身分に等しいがな」


「何だと?」


 団長らしき人が黒いローブを脱いだ。

 そして現れたのは……何とも言えないダサさをした黒い装束だった。


「では改めて名乗らせてもらおう。私は黒龍教団超司教が一人、『偽りのエルドー』だ」


「黒龍教団……だと!?」


 周りの人たちが物凄く驚いている。

 きっと黒龍教団って言うのは凄い危険で危ない組織なんだろう。


 ……けど、私にはあの人の絶妙にダサい服装が気になって仕方が無かった。

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