15 決心
あの後も大学のサークル勧誘かと言う程の勢いで勧誘を受け続けた里奈。
だが結局、彼女がどこかのパーティに入ることは無かった。
その理由として挙げられるものはいくつかある。
一つは、彼女が類まれなる実力を持っていること。
里奈のような化け物じみた実力ならば王都などの都市部に行った方がその力を活かせる依頼も多いのだ。
それは彼女自身の更なる能力の向上においても同様である。
そして二つ目。里奈にとってはこちらの方が重要な事だろう。
彼女が目指しているのは隠しルートであり、そのためには黒龍の少女が住まう秘境へと向かう必要があるのだ。
しかしその秘境は高難易度ダンジョンを抜けた先にあるため、必然的にそれを前提としたパーティを組まないといけない。
そうなった場合、そもそもこの町にいる者たちは強制的に除外されてしまうのである。
高難易度ダンジョンの攻略には最低でもAランク冒険者であることは必須なため、最初から里奈は彼らに興味自体が無かったとすら言えるだろう。
とまあそう言った理由で里奈は彼らとパーティを組むことはなく、例外なく全ての勧誘を断っていった。
その後、両親の待つ屋敷へと戻った里奈。
するとクラインとセシリアの二人は定期的に里奈と会っているにもかかわらず、まるで数年ぶりの再会かのように彼女が帰って来たことを喜んでいた。
確かに本来ならばそう簡単に帰れる距離ではないし、こうなってもおかしくはないのだろう。
だが里奈は別である。走れば半日もかからずに戻って来られるのだ。
と言うかクラインに関しては仕事で何度か町にも訪れているため、結構な頻度で会っているはずだった。
ただ、里奈にとっては久しぶりの我が家である。
冒険者学校の寮だって生活に不自由する程に酷い場所と言う訳では無かったが、やはり我が家が一番心の安らぐ場所であることに変わりは無い。
事実、その日の夜は久しぶりに自室のベッドで寝たためか、里奈はその安心感ですぐに眠りについてしまっていた。
そうして久しぶりの我が家を堪能すること数日。ついに里奈は決心する。
……王都へ行って、冒険者をやるのだと。
より危険な依頼を受け、より強い魔獣と戦い、もっと強くなる。
そして最終的には高難易度ダンジョンを抜けてミラと出会い、絶対に戦死エンドを回避してやるのだ。
そう心に決めて、王都へ行くことを選択した訳である。
それを彼女から聞いたクラインとセシリアの二人は少し悲しそうな顔をするものの、いつもの溺愛っぷりからは信じられないくらいに冷静であった。
自分の娘が王都に出るどころか、ここから離れた場所で危険な冒険者稼業をすると言うのだ。
この二人であればもっと派手に焦るような気もするだろう。
しかし現実は真逆で、二人は酷く落ち着いていた。
「……いつか、この日が来るとは思っていたよ」
「そうね。だって、アルカは私たちの娘だもの」
それどころか、彼らの纏う雰囲気は里奈が王都へ行くことを認めているようなそれである。
一体全体、どうしてあれだけ里奈の事を溺愛している二人がその判断をしたのか。
それは、彼らがかつて名の知れた冒険者であったことが大きく影響している。
クラインとセシリアの二人はその昔、同じSランクパーティに所属していた。
そして他メンバーと共に数多の強大な魔獣を討伐してきた英雄なのだ。
そのため自分たちの血を継いでいる里奈ならばきっといつかはこう言ってくるだろうと、薄々感じてはいたのである。
「……?」
そんな想定外の状況に、里奈は混乱していた。
二人のことだから、てっきりもっと抵抗されると思っていたのだ。
混乱するのも無理もない。
「ああ、これはアルカが決めたことだ。俺たちが何か言うものでもないさ」
「……!」
しかし、こうしてはっきりと言葉にされたことで改めて里奈は理解する。
自身の覚悟が、決意が、認められたのだと。
「ただし、条件がある」
「条件……?」
とは言え、二人がいくら冒険者として里奈の大成を望んでいたとしてもだ。
それ以上に親として里奈の事が心配であることに変わりは無いのである。
その結果、とある条件が里奈へと言い渡された。
「王都へ行くのは15歳になってからだ。流石に子供一人で王都に行くのは危険だし、成人していた方が何かと便利だろうからな」
クラインの出したその条件と言うのは、つまるところ成人するまで待てと言うものだった。
まあ、彼の言い分ももっともだろう。
いくら里奈がCランクの冒険者であろうが、彼女がまだ12歳の子供であることは事実。
そのままでは色々と不便なことも多いし、何より未成年のまま王都へ行くのは二人が不安で仕方がないのだ。
「わかった! それじゃあ、その時までに王都の事をたくさん調べないとね」
そうは言っても成人となる15歳まで待てばいいだけなので、里奈はその条件を飲むことにした。
その間に王都について調べたり冒険者活動をしたり、出来ることをすればいいのだから何の問題も無い訳である。
「ああ、その調子だぞアルカ。きっとお前ならお父さんたちと同じように、王都一有名な英雄になれるさ! いや、それ以上も狙えるかもしれないな!」
「もう、クラインったら」
やる気満々な里奈に向けて調子のいいことを言うクライン。
そんな彼をセシリアは微笑みながら眺めていた。
その後も家族団らんの時を過ごす三人。
「……てな感じで、俺は相棒の魔剣でキングトロルを真っ二つにした訳だ!」
「ふふっ、あの時は本当に驚いたのよ? 全身に血を浴びて真っ赤になって帰ってくるんだもの」
三人共に冒険者であるためか時折聞こえてくる会話の内容が若干物騒ではあるものの、和気あいあいとした空気であることには違いが無い。
少なくとも、この三人が幸せな家族であることに間違いはないのだった。
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