12 卒業試験

 学内剣術大会で圧倒的なまでの力の差を見せつけ、優勝をかっさらった里奈。

 その影響は大きく、彼女は冒険者学校内どころか町全体に名が知られる程の有名人となっていた。


 まあそれも考えてみれば当然の事ではある。

 冒険者学校にはかなりの実力者がいるのだ。そう言った存在を容赦なくぶち飛ばしていったのであれば、こうなるのも当然と言えば当然のことと言えるだろう。


 なお、その事実に耐えきれなかったあの少年は自ら冒険者学校を去っており、その後どうなったのかは誰も知らない。


 とは言え彼がどうなろうと里奈には関係が無いのもまた事実だ。

 それどころか彼が去ったことで彼と共に里奈のことを迫害をしていた者たちもいなくなっていた。

 つまり、里奈はこれでやっと順風満帆な冒険者学校ライフを送ることが出来るようになった訳である。


 それもあってか、里奈は卒業試験までの二年間の内に冒険者として活動する上で必要なありとあらゆる事を満足に学ぶことが出来たのだった。


 唯一の心残り……或いは不満点があるとすれば、対等に戦える者がいないために魔法や剣術の腕を上げることが出来なかった所だろう。

 しかし、それを抜きにしてもこの二年間は間違いなく彼女にとって有益な二年間であった。


 事実、このまま冒険者として放り出されても充分やっていける程の知識と実力が今の里奈にはある。

 なのでこのまま卒業して終わり……と行きたい所だが、そういう言う訳にもいかなかった。

 冒険者学校には最後の最後に「卒業試験」があるのだ。

 

 卒業試験とは言っても、この試験は卒業のための試験では無い。

 では何のための試験なのか……それを説明するためにも、まずは冒険者ランクについて語る必要がある。


 冒険者ランクと言うのはその名の通り冒険者に割り当てられたランクであり、簡単に言えばその冒険者がどれくらいの実力を持っているのかを示すランクだ。


 この冒険者ランクにはFランクからSランクまでの7つのランクがあり、基本的に冒険者登録をした者は皆Fランクから始めることになる。

 その後、冒険者として活動していく中で一定数の依頼をこなしたり強力な魔獣を討伐するなどの功績をあげることで、そのランクは少しずつ上昇していくのである。


 ……と、本来はそう言う仕様なのだが、冒険者学校の卒業試験を受ける場合はその限りではない。

 冒険者学校を卒業した者はそのまま冒険者として登録を行うことが可能となり、その際のランクが卒業試験の結果次第で変動するのである。


 要は卒業試験で結果を残せば通常よりも高ランクから冒険者活動を始めることも可能となる訳だ。

 と言うより、冒険者学校に入学する者のほとんどはこの仕組みを利用するために入学していると言っても過言ではなかった。


 そんな夢のあるシステムがこの卒業試験と言う物の本質であるため、当然里奈も特段気合を入れて臨むつもりだった。

 当たり前の話だが冒険者ランクが高くなるほどに受けられる依頼にも危険なものが増えていくため、実力を高めたいのであれば冒険者ランクが高いに越したことは無いのである。


 更に付け加えるとすれば、高ランク向けの依頼は報酬が多い……と言ったところだろうか。

 報酬は危険度に見合った額が与えられるため、手っ取り早く財を築きたいのであればそれこそ高ランクを目指すべきなのだ。

  

 そんな訳で迎えた卒業試験当日。

 今年の試験内容は町から少し離れた場所にある森での魔獣の討伐だった。


 この森には多くの魔獣が生息しているが、その内の大半は危険度の低い低級の魔獣だ。

 中にはやや歯ごたえのある種類も混ざっているものの、冒険者学校を卒業する頃の実力であればまず負けることは無いであろう魔獣がほとんどである。


 ……しかし、今日この日に限っては状況が違った。


「ひぃっ……!? な、なんなんだよコイツ……!!」


「こんなの聞いてねえぞ!?」


 卒業試験を受けていた生徒たちの前に、突如として一体のクッソデカい魔獣が現れたのだ。

 彼らの反応からもわかる通り、こんなサイズの魔獣は本来この森には存在しない。


 だがこうなってしまった以上、その常識は所詮は過去の情報でしかなかった。

 もはやそんなものに意味は無いのだ。

 現に今、彼らの前にはその魔獣がいるのだから。

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