6 特訓、そして別れ
それからと言うもの、里奈は時間と体力が許す限りルナと魔法の特訓を行った。
ある時は魔力量を更に増やすための修行を。
またある時は魔法の精度を上げるための勉強を行ってきた訳である。
その度に里奈のイレギュラー過ぎる魔法の才能に驚くルナだったが、その中でも特に彼女が驚いていたのは里奈の持つイメージ力についてであった。
この世界で生きている中では絶対に手に入らないような知識やイメージを里奈は持っているのだ。
例えば炎魔法。どういう訳か、里奈は初級魔法のフラムでさえ異常な火力を誇っていた。
これは里奈が炎のメカニズムを知っているからであり、その仕組みを強くイメージすることで魔法に大きな影響を与えていたからである。
それ以外にも、新しく魔法を習得する際にも里奈は異常に飲み込みが早かった。
これもまた彼女の強いイメージ力が大きく影響していたのである。
長年魔法の研究を行ってきた熟練の老齢魔術師などであればともかく、年齢一桁の子供である里奈がそんなものを持っているとなれば違和感しかないだろう。
もっともルナはそんな違和感など気にもとめず、里奈の持つイメージの方に興味津々と言った様子だったが。
当たり前だが、魔法馬鹿と呼ばれている彼女にとってはそっちの方が大事なのである。
実際、里奈のイメージを参考にすることでルナの魔法も格段に精度が向上していた。
そんな経験をしてしまえばもう、他のことなどどうだって良いのだ。彼女はそういう人間であった。
こうしてトンデモ魔術師としての道を着々と進み続けていた里奈も今では5歳。
二年近くもの期間を魔法の特訓に費やしていた訳であり、魔法に関しては完全に伸び悩む所にまでたどり着いてしまっていた。
何より、超絶怒涛の凄腕美少女魔術師であるルナでさえ、里奈にはもう教えることは何もないと言うレベルで全てを教え尽くしてしまっている程なのだ。
そのため、これ以上の特訓に意味がないであろうことは両者とも理解していた。
そんなある日、ついにルナは里奈との特訓の日々を終えることを決定する。
これだけ長い時間を共に過ごしたのだ。里奈と離れることを決意するのは容易では無かったことだろう。
しかしこのまま里奈の師匠をしていてももう自分に出来ることは何一つないのだと、彼女自身がよく理解していたのである。
「アルカ君、よく今日まで私の修行を耐え抜いたわね。もう私が教えることは何もないわ」
「そんなことは……」
そんなことは無い。そう言おうとした里奈だが、残念ながらその続きを言う事は出来なかった。
里奈もこれ以上の特訓にはあまり意味がないことに気付いているのだ。
「そんな寂しそうな顔をしないで。君の魔法の才能は凄いのよ? 私よりも遥かに高い……だから今後はもっと偉大な師を見つけて、もっと腕を磨いてちょうだい。まあでも? この超絶怒涛の凄腕美少女魔術師である私を超える存在なんて、中々いないでしょうけどね~」
目に見えて寂しそうにしている里奈を励まそうとしているのか、はたまた素でそう言っているのかはわからないものの、ルナのその言葉は確かに里奈に届いていた。
「ルナさん……今までありがとうございました。もっと大きくなったら、必ず会いに行きますね」
そしていつか、もっと強くなって必ず彼女に会いに行くのだと心に決めた。
「うふふ、待ってるわ。その時はこっちが魔法を教えてもらおうかしら。……それじゃあ、その時を楽しみにしてるわね」
そんな里奈に、ルナはそれだけ言って屋敷を後にする。
もっと言いたいことはあっただろうが、ここは冒険者としての慣習に基づいた別れの挨拶を選んだのである。
命の危険がある冒険者は決して今生の別れのような挨拶はしない。
もう会えないのではないかと想起させる挨拶は縁起が悪いのだ。
その後、彼女の後ろ姿が見えなくなるまで里奈は見送り続けた。
その頬には涙の痕が残っている。しかしいつまでも泣いてはいれらないと、里奈は気合を入れ直すのだった。
なお魔法メールにはテレビ電話のような機能があるため、遠く離れた相手といつでも顔を見て会話が出来るのだが……その事実を里奈が知るのはもう少し後のことである。
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