転生勇者と黒龍少女~戦死エンドから逃れるために黒龍の少女と添い遂げようとしたら、いつの間にかゲームには無かったルートに進んでしまいました~
遠野紫
1 転生したら勇者だった
(あれ? ここは……どこ?)
目を覚ますと知らない天井が見えた。
でもどうして私、こんなところに?
最後の記憶は確か……仕事帰りにお酒を買って、時間も遅くて次のバスが待ちきれなくなって、寒い中公園のベンチで飲んじゃって……。
で、そのまま寝ちゃったんだっけ……?
駄目だ、それ以上は思い出せない。
ひとまず、ここがどこなのか確認しないと……って、あれ?
起き上がろうとしてもどういう訳か上手く起き上がれない。
と言うより、体に上手く力が入らないと言った方が正しそうだった。
どうしよう……。
そうだ助けを呼ぼう……!
「(すみません、誰かいませんか!?)」
って、喋ることも出来ないんだけど!?
な、なんで!?
もしかして私今、とんでもなく不味い状態だったり……?
「むっ!? な、なんと!! これは奇跡じゃ……!!」
うわびっくりした……!?
全然気づかなかったけど、どうやらこの部屋には人がいたらしい。
焦りと驚きが混ざったような、そんなただならぬ声が聞こえてきたことでやっと気づけた。
そっか……私、今は聴覚も弱くなってるんだ。
『ギィ……バタンッ』
声の主が誰なのかもわからない内にドアの開閉音が聞こえた。
……ってことは、今の人は部屋から出て行ったのかな。
それから少し経って、再びドアの開閉音がしたかと思えば……二人の知らない男女が私を覗き込んできた。
いや、確かに知らないはずなんだけど……どういう訳かどこかで見覚えがあるような気がする。
「まさか……こんなことが起こりうるのか……!? なんにせよ、生きていてくれてありがとう……! 本当に……!!」
男の人の方がそう言って涙を流している。
正直、テンションがよくわからない。
私と彼との関係性なんて赤の他人でしかないはずなのに、どうしてそんなにも感極まっているんだろうか。
「うぅっ……奇跡が起こったんだわ。神が私たちに……アルカに奇跡を起こしてくださったのよ」
「ああ、そうだな……! そうに違いないさ……!」
アルカ……?
って、もしかして私の事なのかな?
でも私はそのアルカって言う人じゃなくて天草里奈なんだけど……。
いやでも、人違いにしては状況がちょっと変……だよね?
「アルカ、本当に生きていてくれてありがとう……!」
えっ、待って待って抱き上げるのはいくら何でも無理じゃ……あれ?
突然男の人が私を抱き上げた。
抱き上げようとしたんじゃなくて、実際に抱き上げた。普通に考えて、これはおかしい。
だって仮にも私は成人女性で、男の人と言えどこんな簡単に抱き上げることなんて出来ないはず。
でも、その疑問の答えを私はすぐに知ることとなった。
抱き上げられたことで見えた自分の体は、記憶のそれとは大きく違っていた。
体は小さく、手足は短い。
そう、今の私は……赤ちゃんなのだ。
……何で?
残念ながらそうなった理由はわからない。
けど、目の前の二人と最初の声の主の三人が会話している内容から、色々と分かったことがあった。
まずここは、日本じゃないみたいだった。
いや、日本じゃないどころか元々私がいた世界ですらないっぽい。
神がどうたらって言うだけならともかく、魔法がどうとか魔獣がどうとかを真剣に話していたんだもん。
間違いなく別の世界だよ。それもファンタジーな感じの。
次に私について。
……正直、こっちの方が大事だった。
アルカと呼んでいたのはやっぱり私の事で良いみたいで、どうやら今の私はアルカ・ルーンと言う名前の女の子みたい。
そしてそのアルカ・ルーンと言う名前が超重要で、私はその名前に心当たりがあるんだよね。
その名前、私がよくプレイしていた百合恋愛ファンタジーRPG『アルカディアストーリー』、通称アルストの主人公である「アルカ・ルーン」っていう勇者と同じ名前なんだよ。
そうなって来るとあの二人を見た時にどこか見覚えがあったのもわかる。
アルストの最初の方でちらっと出てくるアルカの両親……クラインとセシリアが確かあんな見た目だったんだ。
……さて、それじゃあ情報を整理しようか。
ここは魔法や魔獣が当然のように存在するファンタジーな世界で、私はアルストの主人公と全く同じ名前の女の子になっている。
そしてその両親も見た目が一致しているときた。
そう考えると、最後の記憶の後に私がどうなったのかも容易に想像がつくよね。
きっと私はベンチで凍死しちゃったんだ……。
もう2月だもん。夜に酒を飲んで外で寝ちゃったら……そりゃそうなるよね。
つまり状況証拠から判断すると、私はアルストの世界の勇者アルカに転生してしまったってことになる。
……う、うわぁー!!
嫌だぁぁー!!
確かに大好きだったアルストの世界に来れたのは嬉しいよ!?
魔法とかも凄い興味あるし、ファンタジーな世界にだって憧れがある!
それに何より、アルストの世界には可愛くてえっちな女の子が多い!
何度私が画面の向こうに行きたいと思った事か……!
……けど、勇者アルカに転生しちゃうのは想定外だよ!!
だって勇者アルカはどのエンドでも魔王ディアスとの戦いで戦死しちゃうんだもん!!
せっかくアルストの世界に転生できたのに若くして死ぬなんて絶対に嫌だぁぁ!!
「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」
「ど、どうしたんだアルカ!? ほおら、猫さんだぞぉ……だ、駄目か……」
「大丈夫よアルカ。ママはここにいるからねぇ~」
あぁ……感情が昂ったせいか、無意識の内に私は泣き出してしまっていたらしい。
そのせいで二人を困らせてしまったみたいで、なんだか物凄く申し訳ない気持ちになる。
この体にとっては両親でも、今の私にとってはやっぱり他人にしか思えなかった。
でも仕方がないよ。このまま行ったらどう足掻いても戦死は免れないんだから。
確定した死が待っているだなんて絶望でしかないもん!
……いや、待って?
確かアルストには主人公が戦死しないエンドがたった一つだけあったはず。
そうだ、思い出した。黒龍ルートだ。
黒龍の少女である「ミラ」と勇者が結ばれる、通称「黒龍ルート」と呼ばれているエンドは唯一アルカが戦死しない隠しエンドだった。
このルートに進んでエンドを迎えれば、それ以降は戦死の危険が大幅に減るんじゃないかな?
まさに九死に一生!
首の皮一枚繋がったって言うのはこういうことを言うのかも。
ああ、でも……このルートに進むには攻略難易度が物凄く高い超高難易度ダンジョンを踏破してフラグを踏まないといけないんだっけ。
いや、そのくらいならやって見せるよ!
魔王との戦いで戦死するくらいなら、ダンジョンの方がまだ可能性がありそうだからね!
けどそのためには、最低限一人でレベル上げを出来るくらいには成長しないと……か。
本格的に黒龍ルートへの準備を始めるのはもう少し年を重ねてからかな。
まずはたくさん食べてたくさん寝て、立派に成長しないとね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます