HE IS EMPTY.

作家:岩永桂

彼は空っぽです。

HE IS EMPTY.

彼は空っぽだった。いい意味で空っぽだった。

呑み潰した発泡酒の空き缶を溜め込む容積もあったし

社会主義者の説教を聴き入る余裕もあった。無敵だ。


彼は体質的にINPUTに向いていたが

思考は逆にOUTPUTに向かおうとしていた。

そう、何かを書こうとしていたのだ。


彼は典型的に恋愛には向いていなかった。

絵に描いたような焼きもち焼きで、束縛もした。

しかし、今は恋愛矢印が逆向きだったとしても

どこ吹く風だった。


理由から話そうか。彼は資格試験に合格したのだ。

しかも、かなりの倍率の。

来春からは専門職でやっていける保障が約束されていた。

彼が了承するなら、いつか職分、職域も明かそう。


彼は空っぽだった。いい意味で空っぽだった。

あれだけ溜め込んだ消しゴムのカスを

一斉に消去したのだ。そりゃ、容積も軽くなるよ。

あれだけ音読を繰り返した

テキストの念仏に耳を汚したのだ。

そりゃ、社会主義者の愚痴くらい余裕で聴けるよ。


彼は春の到来が本当に楽しみだ。

暖房は22.5℃を保っている。

心地良い人工風の温もりが、頬の表面を上気させる。


テキストの音読中は、一切の音楽再生をOFFにしていた。

今日からはレコードショップだって開ける心構えで。

彼は空っぽだった。悪い意味でも空っぽだった。

希望に溢れる職場にもハラスメントはつきまとう。

故郷に錦を飾る気でいるらしいが、

泪橋を逆から渡るEPISODEならデ・ジャ・ビュだぜ?

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