異世界転生騎士決闘者ソレイユ ~二十七歳ゲーマー、転生先でも対戦よろしくお願いします~
足軽もののふ
第1話
生まれ変わったら健康的な生活を送ってやる。
藤ヶ丘陽奈(二十七歳)は死の間際、自らの不摂生を呪いながら、その早すぎる生涯に幕を閉じた。
ところ変わって、ここはホワイトリリィ女学院である。
生粋のお嬢様が通うこの学校は、男子禁制・乙女の園だ。
学問全般は当然ながら、一般教養並びに上流階級に属する者としての立ち振る舞いまでも教えてくれる。
そして何よりも、この学院ではある特殊な力の扱い方を教えていた。
ソレイユ・フリージはこの学院に通うハイクラス在籍の二年生だ。
腰まで伸びた艶やかなハニーブロンドの髪を風に舞わせ、切れ長なアイスブルーの瞳で前を見据えている。
清楚なワンピーススタイルの制服を可憐に着こなす彼女のその中身は、何を隠そう藤ヶ丘陽奈なのである。
いわゆる異世界からの転生者というものだ。
思いもよらぬ第二の生を陽奈――ソレイユは存分に謳歌していた。
恵まれた家庭環境の元に生まれ、生活に不自由を感じたことは無い。
前世の記憶は残ったままだが、そのことで何か困るという事もなく平穏に過ごしていた。
ソレイユ・フリージとしての第二の生は順風満帆。
しかして前世の世界でいうところの高校二年生にあたる春。
ソレイユの中に眠る闘争本能が目を覚ます――。
さわやかな朝日の中、ごきげんようと優雅な挨拶が飛び交う。
ソレイユもまた柔和な笑顔で乙女たちの挨拶に応えていく。
そんないつもと変わらぬ朝の光景は、駆け寄ってきたクラスメイトによりもたらされた報せにより一変した。
いつでもおしとやかであれが教訓の一つであるこの学院において、焦る様子というものはひどく珍しいものだった。
思わず真剣な顔つきになりながら、ソレイユは駆け寄ってきたクラスメイトにどうしたのかと尋ねた。
「大変ですわ……っ、シエルさんが……シエルさんがオーロラ様と
「なんですって!」
ソレイユは大きく目を見開いて、驚きを露わにした。
シエルはソレイユを慕う後輩である。
ソレイユの瞳と同じ、アイスブルーの髪色をした彼女のことをソレイユはいたく気に入っていた。
争いを好まない穏やかな性格の彼女が何故、
ソレイユはクラスメイトから二人の居場所を聞き出すと、急ぎ薔薇の園へと向かった。
薔薇の園とは学院の外れにある、小さな庭園のことである。
一年を通して様々な色の薔薇が咲き誇り、乙女たちにとっては憩いの場の一つとして親しまれていた。
そんな庭園には、もう一つの顔がある。
それこそが
「シエル! 無事でいらして!?」
薔薇の園に辿り着いたソレイユは、飛び込む様に入り口のアーチを抜けて、その光景に絶句した。
四方を薔薇に囲まれた広場の中心に、シエルが倒れていたのだ。
「シエル!」
ソレイユは顔面蒼白で駆け寄ると、ぐったりとした様子のシエルを抱き起した。
「ソレイユ、お姉さま……」
「しっかり……っ、どうして
「オーッホホホホッ!!」
二人の間に割って入る様に、突如として高笑いが響く。
ハッとして顔を上げたソレイユが見たものは、対面で仁王立ちをするオーロラ・デ・グローリアであった。
縦に巻かれたボリュームのある薄紫の髪と、目尻の吊り上がった気の強そうな瞳が彼女の在り方を強く物語っている。
髪と同色の瞳がソレイとシエルを見下ろしていた。
「あら、ソレイユ様。遅かったですわね。今、
「オーロラ様……何故、シエルと
思わず語気を荒くしながら、ソレイユはオーロラを強く睨みつけた。
乙女にあるまじき態度だとは思いながらも、ソレイユはどうしても沸き上がる怒りを抑えることが出来なかった。
「ふふっ……良い目をしますわね。やはり私の想像通りですわ!」
オーロラはソレイユの視線を真正面から受け止めて、再び高らかと笑う。
オーロラの意図が読めないソレイユは、ただ黙ってシエルを抱きしめていた。
「シエルさんには申し訳ありませんでしたけど、ソレイユ様。貴女、これくらいしませんと
そう口にした途端、オーロラの足元から光が溢れる。
オーロラを包み込むように放たれた白き閃光、その中から気高き紫紺の鎧を纏った騎士が姿を現す。
平均的な成人男性に比べ、一回り程大きな騎士は、漆黒のマントをたなびかせながらオーロラの背後に着く。
これこそが騎士であり、選ばれた者だけが扱える超常の力なのである。
「オーロラ様の騎士、ランスロット……」
「ええ! 最も優れた私にふさわしい、最も優れた騎士ですわ!」
「存じています。全戦全勝、この学院で最も強い奏者と騎士……」
「そう。私は負けたことがありません。しかしたった一人だけ……勝敗の付いていない方がいるのです……ッ!」
オーロラの視線がソレイユを力強く射抜く。
意志の強い薄紫の瞳には強い熱が籠っているのが見て取れて、ソレイユは思わず息をのんでいた。
「貴女はその身に騎士を宿しながら、ただの一度も
オーロラの鬼気迫る迫力に、ソレイユの心臓が早鐘を打つ。
最強というたった一つの椅子。
騎士を操る者『奏者』であれば、一度は夢に見るその座を目指すオーロラの姿はソレイユには酷く眩しく見えた。
ソレイユはその輝きを知っているのだ。
ものは違えど一度は自分も目指した場所。
その輝きは、ソレイユの中に眠る闘争の二文字に火をつけるには十分すぎるものだった。|
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