人見知りが激しい妹系クーデレに懐かれた俺は距離間バグっているせいでグイグイ迫られる。一ヶ月後、寝ていると懐の中であいつが寝息を立てていた……カクヨムコン10【短編】
第2話「鉄壁の陰キャラ人形姫攻略戦三日目〜九日目」
第2話「鉄壁の陰キャラ人形姫攻略戦三日目〜九日目」
★
五日目
「おはよう尼子。朝から読書か?」
「……………………」
「俺小説とか読むの苦手でさ、どうしても文字だけだと知恵熱でてしまうんだよなぁ。うんうん」
「……………………」
安定の無視ありがとう。
もう五日目。反応が返ってこないのも慣れた。警戒心が強いのなら毎日の挨拶で少しでも雪解けできれば攻略の糸口になるんじゃないかと本日も勤しむ。
それにしても今日も冷えるな。暖房ぐらい入れて欲しいものだけど学校はケチだ。
⸺で、人形姫こと尼子は平常運転。こちらにまるっきり関心を示さない。そろそろ俺の溢れ出るフェレモンに惹き付けられても………ないっすけど。
いやいや、急ではことを損じるというし根気よく攻めていこうか。
「……うん?」
「…………………………」
それはいいとして……隣人は先程からカバンとか机とか何度も漁っていた。このまま放って置けばエンドレスでサイクルしてるな。
あーあ、尼子100パー教科書忘れたろ? 顔色変えてないけど慌てている様子だ。
なので機転を利かせた俺は尼子へマイ教科書を提示し、「教科書見せてやるよ」と机をジョイントした。
本は読んではくれるけど俺の事は空気の如くガン無視。泣けてくる。
確かにこれじゃ誰でも放棄したくなるわな。人慣れしてない猫のように根気がいる作業だ。
七日目
かったるかった体育の授業も終了。今日はサッカーだったから体操着だけで駆け回るカースト上位の陽キャラどもと違い、やる気のかけらもない俺はジャージで終始頑張っている振りをする。安定のディフェンダーでキーパー並みに動くことはなかった。
教室に戻る途中、人形姫が体操着でうろうろしている。
どうかしたのかと尋ねるも、「……………………」反応はない。相変わらず無視。
状況確認して推理をしてみる。結果、着替えたはいいけど制服は見当たらないということだな。
誰かの嫌がらせかと一瞬疑うも、女子も男子もいいやつばかりなのでうちのクラスにいじめはない。断言する。
道行くクラスの女子に尼子は教室で着替えてるのかと聞く。返答はノー。どこかで着替えているらしい。
ならば導き出される正解は一つのみ。
ぼっちの着替える処といえばトイレだ。
⸺ということはあそこに制服忘れて、たまたま掃除していた用務員さんが気を利かせて預かったということになる。人形姫は生粋のドジっ娘属性だ。可能性はかなり高い……。
早速職員室へ。俺の推理は見事に的中、制服は尼子の元へ無事帰ってくる。
「よかったな尼子。もう冬間近、体操着じゃ寒すぎる」
「…………………」
無視されるも漸く認識してくれたのか初めて目が合う。
なんか嬉しかった。
九日目
事件が起きる。
放課後の下校中、自炊しているので何を作ろうかと思案していたら近くの公園で尼子が倒れていた。
貧血か? 季節の変わり目で寒暖差が激しいし、最近人形姫の顔色悪かったからな。
「大丈夫か? 尼子しっかりしろ!」
「……………………」
俺の腕の中、人形姫はぱちっと意識が回復するも普通に歩こうとするから、「ちょっと待て! タンマタンマ」行かないように小さい手を掴む。
柔らかくて暖かい手……。女子の手など幼稚園のマイムマイム以外握ったことが皆無なのでこみ上げる喜びはひとしおだ。
「…………………………」
「無理するな。今倒れていたんだぞ」
「…………………………」
それでも手を振りほどこうとする尼子。
「尼子よ俺を頼れ。信用してないと思うけど俺はお前の味方だ。絶対に裏切らない」
「本……当? ボクの味方?」
初めて聞く声。甘く優しい声色。お姫様にふさわしい。
「ああ、絶対だ。嘘ついたら針千本飲んでやる! だから俺がおぶっていくから家を教えろ」
尼子は長考後、「ん……」ゆっくりと頷く。
おお、ちゃんと意思疎通ができた。素晴らしい。
俺はおぶって人形姫のマンションへ送り届ける。意外と遠いけど初めて密着する女の子は軽いしいい匂いだったので無問題。終始、背中の暖かさでブーストし寒い秋風は物ともしないのだ。
事前に先生から得た情報によると、両親は滅多に帰宅してこないからほぼ一人暮らしらしい。
心配だったが流石に誰もいない女の子のお部屋へお邪魔するわけもいかないので、何かあったら俺を呼べと電話番号を教える。
尼子は可愛らしくこくんと頷いた。
可愛い……。
人見知りが激しい妹系クーデレに懐かれた俺は距離間バグっているせいでグイグイ迫られる。一ヶ月後、寝ていると懐の中であいつが寝息を立てていた……カクヨムコン10【短編】 神達万丞(かんだちばんしょう) @fortress4
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