人見知りが激しい妹系クーデレに懐かれた俺は距離間バグっているせいでグイグイ迫られる。一ヶ月後、寝ていると懐の中であいつが寝息を立てていた……カクヨムコン10【短編】

神達万丞(かんだちばんしょう)

第1話「鉄壁の陰キャラ人形姫攻略戦一日目〜二日目」

 

 世に『我に七難八苦を与えたまえ』などというはた迷惑な文言が存在するけど、俺なら普通にお断りだ。何処のマゾヒストなんだ?

 俺こと普通の高校男子、山中鹿之助は日々平穏無事に学校生活を暮らしたい。同姓同名の偉人みたく余計なイベントはノーサンキュー。

 なのに新学年に転校してきた女子が全てをぶち壊す。


 無口で大人しい転校生の尼子瞳子(あまごひとみこ)は人見知りが激しいのだ。気がついたらクラスから空気扱いされて蚊帳の外。ぼっちを貫く尼子とクラスの一員であり続ける俺とは相容れない。

 それなのに先生は俺へ特別任務に白羽の矢を立てた。

 孤立した尼子をクラスに溶け込むように導いてやってくれと……。期限は一ヶ月。無理なら空き教室か保健室登校も視野に入れる。拒否権はない。成功報酬は食堂の割引券……ってせこい。

 高校生ぼっちの墓場……空き教室と保健室かぁ。それはイヤだな。

 でもさ、独り好きな奴に仲良くしようなんて無理ゲーだろ……それ。


 基本的に目立つのが嫌いな俺は波風を立てず平穏に過ごすモブ系普通男子。なのに一般的な始まりの村へようこそなキャラが、ラノベ主人公キャラみたいな偉業を真似できるわけもないのだ。


 大体前任者達が匙を投げるのってどうなのよ? 可愛いから役得だと色めき立っていたのに、無視されるからダレるとか、フィギアに話しかけている危ない人になった気分だとか、ここ進級して半年に何人もの陽キャラ達を撃退してきた。

 そうして付いたあだ名が鉄壁の陰キャラ人形姫。

 ついに誰も受けなくなってしまい責任を俺に押し付ける……。


 更にクラスメイト達の策謀だろうか、急遽決まった席替えで隣の席が尼子に替わる。ありがた迷惑だ……。

 周りが頭下げて手を合わせる。割に合わねえなぁ。


「今まで絡みがなかったから自己紹介。俺は山中鹿之助だ。よろしくな尼子」

「………………」


 反応がなかった。まるで人形。しかも美少女だから対応に困った。

 可愛いのだ。メガネっ娘で小さい。言うなれば妹系キャラだ。茶髪ロングで肌に赤みがある。発育は良くないが諦めるには早い。ただ無表情なのでロボ。

 難易度S級のこの無茶振りな依頼、果たして俺に務まるのだろうか? 幸先が不安になってきた……。


 鉄壁の陰キャラ人形姫攻略一日目。


「おはよう尼子。今日は幾分か寒いな」

「…………………」 

「風邪引くなよ。お前身体弱そうだからさ」

「……………………」


 反応はなかった。流石は陰キャラ人形姫。一筋縄にはいかない。

 今日も可愛い。死んだみたいに動かないが隣の席なので息遣いは聴こえる。どうやら尼子は消しゴムがない様子。執筆中なのだろうか、フリーズして固まっていた。仕方ない貸してあげるか。


「良ければ俺の使ってくれ」

「……………………」  


 人形姫は電源がはいった様に再び作業を開始、でもお礼もなにもなかった……。

 これはきついわ。


 放課後、何か攻略するキッカケがないかクラスメイト達に相談するも、私達でもお昼とか誘ったし遊びに誘ったんだけど反応なし、オレ達も話しかけたけど無理だった。

 役立たずどもめ。

 カースト上位に位置する社交マスターのこいつらでも歯がたたないのなら、普通の俺じゃすぐに戦死だぞ……。

  

 二日目


「おはよう尼子、今日も良い天気だな? 寒いけど」

「……………………」

「お前が今読んでいる小説面白いのか?」

「……………………」


 はいはい、今日も絶賛反応なし。されどお小遣いの節制できる貴重な割引券は魅惑的なので、このくらいじゃ挫けない。


 尼子、今日は夏服できたのか? 女子達がブレザーに身を包んでいたのに対して尼子は白いブラウスのみ。もうすぐ冬将軍到来なのに冬服が乾かなかったか……。親御さんにコインランドリーで乾かして貰えればいいのに⸺⸺いやいや余計な詮索はしない。プライベートに首を突っ込んでもな……。


 なら俺の出来る事は限られてくる。

 もうだいぶ冷えるからこれを使えと使い捨てカイロを渡す。でも反応しないので無理矢理胸のポケットとスカートのポケットへ突っ込んだ。

 世話が焼けるな。実家の六つ子の妹達を思い出す……。


「なんかあったら俺に言え。大したことはできないけど相談に乗るからさ」

「……………………」


 はい、本日四回目の無視いただきました。

 まだ二日目だが早目に何か対策を形成しないと、本当にこいつがこの教室からいなくなってしまう。俺のせいで尼子の人生に影響を与えるなんて絶対に阻止だ。トラウマものだからな……。

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