伝説の聖者ならぬ性者様は地道にハーレムを築くようです〜ちょっとエッチでギャグシリアスなラブコメ冒険譚〜

来世は動物園の動物になりたい

第一話 彼女との出会い

 

「はあ、何かエッチぃ良いこと起きねぇかなあ」


 そんなことを思いながら歩いていた。ぼーっと、頭を真っピンクにしながら。


 ブオォオオんーーー。



 そしたら吹っ飛ばされていた。


 視界を真っ赤に染めて。




 そして今に至るわけだ。


 俺はいわゆる異世界転生をしたらしい。剣と魔法で彩られた世紀末世界へと。


 今俺は人生の岐路に立っている。魔力検査。魔法の適正および魔力量などを量る検査。その検査に俺は今、臨んでいる。


 この検査はとても重要だ。

 魔法適正があるか無いかで人生は大きく変わる。どれほど変わるかというと、生まれた時にめっちゃ可愛い義姉がいるかいないかくらいだ。


「……続いて96番……」


 マズイ4つ前の番号が呼ばれた。そろそろだ。





「こっ、これは黄金の光……!!!」



 何やら前の方が騒がしいな。まあ良い、俺は自分のことに集中、集中! 俺は貴族なんだから大丈夫、大丈夫……。


 そう俺は貴族に転生した。貴族は基本的に魔法適正がある。だから俺は大丈夫……なはずなんだ。


 ……だけど俺は、俺には魔法予兆がなかった。


 魔法予兆、魔力検査を受ける以前に、無意識のうちに魔法を使用すること。

 もし魔法適正が無ければ、俺は…………。


「続いて100番、イシュタル・トーマス!」


 よ、呼ばれたっ。急いで前へ行かねば。



 身を横にし、人をかき分け、魔法水晶がある前の方へと出る。


「は、はいっ。100番! イシュタルです!!」


「では、水晶に手を置いて」


 目の前にある低い階段を少し登ると、教卓のような台がある。その上に水晶は座していた。

 恐る恐る、水晶に手を触れる。


「さぁ、水晶に力を込めて」


 っ……。クっ……。


 クゥ。




「……これはぁ、魔力無しかっ……」


 ヒソヒソと検査官たちが何か話している。


 おそらく俺に魔力が無いかもしれないことを話しているのだろう。


 ふぅーはぁー。


 息を整え、再び集中する。


 くぅ。


「……光った」


 検査官の声に、目を開く。


 輝いていた。ピンク色に。


 ピンク? ……そんな色、魔法の種類にあったっけ?


「こ、これは……伝説の……淫魔法かっ!?」


 陰魔法? 確かに俺は陰キャで少々インポ気味だが……。陰魔法も加わって、陰の三拍子揃っちゃうのか?


「い、陰魔法って?」


「あぁ淫魔法というのは、別名、淫らな魔法。淫魔法を操りし者は性者せいじゃと呼ばれ、勇者と共に世界を救うと言われている。そして性者は淫魔法に覚醒したと…………」


「いんって、そっちの淫かよ……」



 淫魔法という、なんかよくわからない魔法が使えるとわかり、驚きと困惑が胸にこだましていた時だった。




 ほわわわ〜〜〜〜ん。


 白い煙が視界を包む。


 コホッ、コホ。


 なんだなんだ。何事だ。


 口と鼻を手で覆いながら、薄く目を開く。すると白煙のベールがほどけていくのにしたがって、人のようなものが姿を現していく。


 

 つ、つばさ? 宙に浮いてる? それに顔のあたりには2本のツノ。



 まさか、サキュバスか?!



 やがて煙が空気に溶けていくと、その生き物は姿を現す。

 背中には漆黒の翼。額には2本のツノが黒光りしている。


 まだ発達途上に見える中学生ほどの身体。健康的な褐色肌は、黒いチューブトップとショートパンツで飾られている。


 桃色の長髪がラメのように煌めいて、髪よりも少し濃いピンクの瞳は魔性を秘めているようだ。


「アンタが私を呼び出した、ってわけ?」


 なぜサキュバスがこんなところに……。それに、俺が呼び出したって??


「貴様ぁ何者だぁ!」


「サキュバスか! 魔人め、父の友達の従兄弟の従兄弟の友達の友達の恨みぃい!」


 どうやら検査官たちもサキュバスの存在に気づいたらしい。真ん中の、一番ベテランっぽい検査官以外は杖を構え、魔法を放とうとしている。


「皆の者! やめぬか! このお方は性者様の眷属であらせられるぞ!」


 ベテラン検査官が声を張り上げる。


 しかし状況が全く掴めない。


「検査官殿! 一体これはどういうことでしょうか?」


「あぁ、性者様。……今ここに現れたサキュバスは、貴方様の眷属でございます」


 眷属……。


「……しかし、眷属は召喚の儀をしなければ現れないはず……」


「ちょっとちょっとぉ、私を差し置いて話を進めてるんじゃないわよ」


 俺の言葉をサキュバスが遮る。


「まぁいいわ、こんなに人間がいるんだから血祭りにしてあげるっ!」


 そのサキュバスはこちらを睨みつけ舌なめずりをしている。


 まずい、俺を襲う気だ! 


「やめろっ!」


 サキュバスがこちらに飛びかかってくるのが見えると、俺は反射的に両手を顔の前に構えて声を上げていた。


「っ///あっ//」


 来るはずの衝撃が来ない。手の震えを抑えながらゆっくりと顔をあげる。


 そこには地面にうなだれ、痙攣しながら悶えているサキュバスの姿があった。


 は、破廉恥だ。


 だがそれより……。


「こ、これは隷属の紋章?」


 そう、サキュバスの背中には隷属の紋章があった。

 一体誰に隷属しているっていうんだ。まさか……俺に?


「おお、本当にサキュバスを従えているぞ! さすが性者様です」


「こ、このサキュバスは本当に俺の……」


 俺の眷属だって言うのか……。


「はぁ、はあはぁ、一体、私に何を……?」


 どうやら隷属紋の効果が切れたようだ、サキュバスが立ち上がってこちらを睨みつけている。


「へ、変な気を起こすなよ。もう一度、隷属紋を使ってもいいんだからな」


 俺の声が火に油を注いだのか、サキュバスの殺気がさらに増す。だが大丈夫なようだ。動く気配は無い。




 ふぅ。




 息をつく。大丈夫だ。眷属ってことはこれから一緒に人生を歩んでいくってことだ。勇気を出さなきゃ。



 ここで一歩を踏み出すんだ。




「何近づいてんのよ」




 やっぱりちょっと怖いけど。




「だからこっち来んなっての……」




「俺はイシュタル・トーマス。これから……よろしく、えーーっと……君の、なま、えは?」


 震える手を勇気でもって動かしながら、俺は目の前のサキュバスに手を差し出していた。



 少し驚いた様子で、彼女は目を見開いている。その後彼女は目を横にずらし、そっけない様子でこう答えるのだった。


「シャ……シャルカ……よ」


「え? なにって?」


「だ・か・ら! 私の名前はシャルカ! よ!」


 シャルカ……可愛らしくも品のある響きだ。


「握手、してくれる? シャルカ」


 微笑みながらそう呟けば、シャルカは頬を薄紅色に染めるのだった。


「気安く呼び捨てで呼ばないでくれる? 様を付けなさい! 様を」


 ムカッ。ずいぶん強気だなぁ。思わず顔がひきつってしまう。また隷属紋の力を使ってやろうかぁ? 


「い、いやぁ流石に様は付けたくないなぁ。せめて苗字で呼ばさせてくれない? そういえば苗字は?」


 確か魔人にも家名はあるはずだ。


「やめて」


 急に冷えた声を突き出すシャルカ。


「私、自分の家が嫌いなの。だから苗字のことは聞かないで」


 彼女の目は芯が通っていて、俺は頷くしかなかった。



 これが彼女との出会いだった。

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