殺し屋の愚痴

第5話 サービス残業

　零は、組織を抜け出す決意を固めたものの、現実の壁は厚かった。組織は、彼を手放すつもりは全くなく、執拗に追ってきた。逃げる日々は、零を精神的に追い詰めていった。

　そんなある日、零は、かつて共に仕事をしていた仲間と偶然ばったりと出会った。その男は、今は普通の会社員として働いていた。

「零か、久しぶりだな」

　男は、驚きながらもどこか懐かしそうに零を見つめた。

「お前、元気だったか？」

「ああ、なんとか」

　零は、複雑な表情で答えた。男は、零の様子がおかしいことに気づき、心配そうに尋ねた。

「どうしたんだ？顔色が悪いぞ」

　零は、ため息をつきながら、自分の置かれている状況を打ち明けた。組織から追われていること、もう殺し屋として生きていけないこと。

　男は、零の話を静かに聞いていた。そして、こう言った。

「俺も昔は、お前と同じように組織で働いていた。毎日、サービス残業させられて、もう限界だったんだ。それで、思い切って会社を辞めた」

　男は、当時のことを振り返りながら、こう続けた。

「最初は、新しい仕事を探すのも大変だったけど、今は、普通の会社員として働けて、本当に良かったと思ってる。お前も、俺みたいに、違う道を選んでみたらどうだ？」

　男の言葉は、零の心に響いた。零は、男の経験を聞きながら、自分自身の将来について考え始めた。