3章 化け猫屋
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眼前に広がる青い海はどこまでも続いている。
天を仰げば青空が広がり、白い羽を持った鳥たちがその空を踊るように舞う。
ここは
港に停泊している船には逞しい男達が荷を下ろし、市場では女達は今朝方捕れたばかりの魚を捌いている。
街の中も活気があふれ、すれ違う人々の顔は明るい。
「ここが海なのですね!」
海を見て目を輝かせる理子。その様子を優しい眼差しで茜色の瞳が見つめていた。
夏彦の屋敷から
隠れ蓑の術を施した夏彦と理子は
理子は初めて見る海や船に心躍らせ、港を見下ろす。高台から見える景色は今まで理子がみたどんな景色よりも美しく見えた。
「九尾様、連れてきてくださりありがとうございます!」
(なんて広いのだろう。こんなにも大きな船が小さく見える。それにこんなにも海が青いだなんて知らなかった)
海から吹く風が頬を撫でこそばゆい。風で舞い上がる髪を片手で抑えながら、隣で同じように海を見ていた夏彦にお礼を言った。そんな楽しげな様子の理子に
「ふっ......なら、よかった」
と口元を綻ばせ、笑いかける夏彦。そして「ここから市場が近い。まずは食べ歩きでもするか」と続けた。夏彦の誘いに理子は「はいっ!」と嬉しそうに答え、二人は連れ立って町の中へ足を踏み出した。
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「とても美味しかったです」
夏彦に案内され市場を一周回った頃には、夏彦も理子も腹が満たされていた。甘辛いタレが染み込んだイカ焼きに、鮮度抜群の海鮮焼きそば。そして、口直しはわらび餅。どれもこれも絶品だった。
市場はとても誘惑が多く、おかげで着物が少し苦しい。
「そうだな、お腹いっぱいになったな」
「はいっ!」
満腹で腹をさする理子を満足げにみやった夏彦は「腹ごなしに、町を案内しよう」と、提案。夏彦の言葉に「いいのですか!?」と理子は目を輝かせた。
「露店がたくさん並んでいるんですね」
町の至る所に露店が並んでおり、人だかりができていた。食べ物だけではなく、着物やかんざし、工芸品など多種多様な商品が並ぶ。物珍しさに理子は道の両側に並んでいる露店を見渡していた。
「
夏彦に
まるで大切なものを見るような眼差しで__.......隣で歩く理子を見つめながら。
そんな夏彦の視線に気が付いていない様子の理子は、「あれは何でしょう?」「あれはどこのお国のものなのでしょう?」「どういうときに使うものなのでしょう?」と矢継ぎ早に質問。興奮冷めやらぬ様子の理子を見て、夏彦は口元を緩めた。そしてそのまま茜色の瞳を優しげに揺らしながら、「あれは__......」と事細かに説明をしていった。
......__それは、温かな、穏やかな昼下がり。
それから、二刻ほどの時間が経った頃__......
「とても楽しいひとときでした。九尾様、ありがとうございます。今日は楽しくて、楽しくて。夢中で歩き回ってしまって__」
一通り露店を見て回り理子は隣で歩きながら、町を余すことなく案内してくれた夏彦を感謝を込めて見上げると
「それはよかった」
理子の言葉に夏彦は胸を撫で下ろした。そしてそのまま夏彦は
「最後に寄りたいところがあるんだ。足は痛くはないか?まだ歩けるか?」
と理子を気遣わしげ に投げかけた。夏彦の言葉に、大丈夫だと深く頷くと夏彦は「こっちだ」と迷いのない足取りで
「九尾様はこの町によく来られるのですか?」
思えば、夏彦は今日は慣れたように町を歩いて、人が多いところを避けた道を進んでいる。おかげで理子は人混みに飲まれることはなかった。
「あぁ、知り合いがいるからな」
知り合いというわりに、一瞬どこか苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた夏彦。
「知り合い、ですか?」
心配そうな声色を夏彦に向けた理子に「あぁ、悪い奴じゃないんだ」と首を僅かに竦めた。
「あと少しで着く。もう少し歩けるか?」
「大丈夫です」
「そこの道を左だ」
そんな会話を何度か重ねるうちに、夏彦がふいに足を止めた。そこは人通りの少ない路地裏の行き止まりだった。
「ここに今言っていた、知り合いがいる。今日、キミを
夏彦が指示した先には、古びた木に墨で書かれた『
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