生贄少女は九尾の妖狐に愛されて

如月おとめ

序章 終わりと始まりと

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凄まじい勢いで燃え盛る火柱。

眼前に広がるのは、紅色の世界。

真っ赤な炎が燃え広がり、至る所から人の悲鳴と家屋が崩れる音が響き渡っている。濛々と黒煙が立ち込める中を逃げ惑う人々。

人の怒号と遠くから聞こえる獣のけたたましい咆哮、そして、血と煙の臭い。


そんな混乱の中、人々が逃げている方向とは真逆に地面を這う少女がいた。

両足が折れてしまっているのか、爪を土に突き立てながら前へと進んでいる。


「お父様っ!!お母様っ!!」


ぽろぽろと大きい雨粒のような涙で地面を濡らしながら__.......。


「理子!わたしたちにかまわず逃げろ!」

「貴女は私たちの宝。だからこんなところで死んでは駄目!」


10歳ほどのか弱く幼い娘の力では瓦礫の下敷きになっている父と母を救う術もなく、ただただ父と母を呼びかけることしかできない。

両足が折れた身体では助けを呼びに行くことすらできず、少女は自らの無力を呪うしかなかった。


はある日、何の前触れもなく大きな音を立てて崩れていく。




少女の網膜に焼き付いたのは、「生きろ!」「生きて!」安心させるように笑う父と母の姿。



......______そして、父と母を飲み込んだ朱色の波。





「いやあああああぁぁぁぁ!!!!!」



どれだけ手を伸ばそうと、握り返してくれる者はなく、ただ虚しく空を切った。


どれだけ嘆き喚こうと、返してくれる言葉はなく、ただ轟轟と炎が音を立てていた。





いつも味方でいてくれた父といつも暖かく見守ってくれた母、そして父と母と過ごした暖かな家は焼け焦げ、灰と化した。









「あああああぁぁぁぁぁ!!!!」


は全てを失い、そして一人になった。






......______この光景が瞼の裏に焼き付いて、いつまでも離れないんだ。

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