第5話 リュウール(2)

 3年前の3月末に、兄のトーマスがリュウールがいた修道院にを迎えに寄越した。当時リュウールは修道女の格好して、修道院で生活をしていた。修道女の格好の彼を見ても迎えは何も言わずに服を差し出して

「お着替えください、リュウール様」

 と言った。リュウールは何も言わずに男の服に着替えるしかなかった。最後に修道院院長であったキャサリン院長に挨拶して修道院を後にした。

 9年ぶりにシモンズ邸に帰宅すると兄のトーマスが待っていて

「大きくなったなぁ、冒険は楽しかったか?リュウール」

 とい言うと、抱きしめて、頭を撫でてくれた。

「ただいま、兄様。冒険は楽しかったよ。だけど、僕はもうチビじゃないよ」

 と頭を撫でているトーマスに文句を言う。

「明後日はトルベール学園の入学式だから、今日は良く寝て明日話を聞く」

 と言うと家を出て行った。

 9年ぶりのシモンズ伯爵邸は、何処かよそよそしく歓迎されている様には一切感じられない雰囲気であった。残されたリュウールは、トーマスの替わりに入って来た執事長のジョージにリュウールの部屋に連れて行かれた。

「旦那様は只今出張中なので、挨拶は後日となります」

 と言われて部屋に残されたが、余りにも何事もなかった様に言われて肩透かしな感じだった。侍女が、部屋に入ってきた。

「リュウール様、私は侍女のアリスでございます。何かございましたら申し付けください」

 彼女だけが、笑顔でリュウールの顔を見て話しかけてきた。リュウールはその笑顔で少しホッとしながら答える。

「ありがとう、アリス今は特に何もない」

「ご夕食は6時でよろしいですか」

「それで良いが、今まで修道院で過ごしていたからたくさんは食べきれない。量と品数もそんなにいらない」

「かしこまりました。それでは6時にご夕食をお運びします。それではごゆっくりお過ごしください」

 そう言って、アリスは部屋を出て行った。

 リュウールは、やっとひとりになって自分の部屋を見渡すが、何一つ知っている物懐かしい物はなかった。これでは殺風景だと思っていた修道院の部屋の方が、自分の部屋だという気がしてくると思って笑いが出てしまう。夜になって、ベッドでゆっくりしようと思っていたが、何も匂いもしないベッドは、よそよそしく居心地が悪くてその日は中々寝れなかった。

 次の日トーマス兄様が、やって来て話をした。

「良く寝れたかい?」

「あまり寝れなかった、兄様は今どこにいるの?」

「俺は今、王宮の近衛騎士団の兵舎にいる」

「近衛騎士団?」

「そう、王族の警護や王宮内の警備それと戦争が勃発した場合の騎士としての仕事が主かな」

「いつから近衛騎士に?まだ研修中?」

「近衛騎士団にはもう4年、高等部1年の8月に飛び級して近衛騎士団に入った。研修は去年終えて、今は騎士団の副団長をしている」

「副団長?ってそんなに直ぐになれるの?」

「まぁ、俺は優秀だから副団長は結構内務的な仕事が多いから」

「そうっか、でも早すぎだろ」

「まぁ、早いけどなり手がいないならするいかないだろう。結構ハードだから」

 そう言っている兄様の顔をマジマジと見つめた。

「それじゃ聞きたい事があるんだけど、僕はトルベール学園の入学試験って受けてないけど、明日行っても大丈夫なのか?」

「キャサリン院長がトルベール学園に推薦状を書いてくれたから大丈夫だよ」

「それと僕は色々と振り回されて放浪したけどそれって理由があるのか教えて欲しい」

「リュウール、お前は『オーデンスのΩ』だから誘拐される危険性が常にある、それを避ける為に安全な所に連れて行かれたって思って欲しい。もうちょっとお前が大きくなって理解ができるようになった時にもう一度話すから、それと明日からの通学は警護隊が付く、これは国王陛下からの命だ。警護隊長はちょっと変わり者だが、ヘインズ・アーツが務める。何かあればそいつに言えば良い、俺に連絡が来る事になっている」

「『オーデンスのΩ』なの僕って」

「そう、お母様がルナ・オーデンス伯爵であったからお前は『オーデンスのΩ』だ、お前はこの国の歴史について勉強していないのか」

「歴史は知っているけど僕がそれなんて思わないし、それならリュウール・オーデンスなのか僕は」

「そうだよ、お前は歴史に残るオーデンス家の末裔だ、俺もそうだけど俺はαだからオーデンス家を継承する事はない。『オーデンスのΩ』を狙っている奴らがいるのは事実なんだ。それはしっかり自覚して置いて欲しい。今日はここまでにしよう、ゆっくり寝て明日入学式で眠たくならない様にしておいて」

 そう言いながらトーマス兄は家から出て行った。

 リュウールは、何となくだが腑に落ちた。

『オーデンスのΩ』だからお前を誘拐しようとする輩がいるから無闇に笑はない様に知らない人知らない話にはついて行くな』

 と旅の始まりに言ったカール元帥が言葉を思い出した。

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