第24話




【収納の魔術】を発動させる。空間に裂け目ができると、そのなかに右手を突っ込む。頭のなかで念じて、目当てのモノを呼び寄せる。


 裂け目から右手を引き抜いて、古びた短剣を取り出した。みすぼらしくて刃が錆びついる戦闘では役立ちそうにない武器だ。


「……なんです、それ?」


 ボロボロの短剣を見て、マリスは不審げに聞いてくる。こんなもので死神を倒せるとは思えないようだ。


 それには同意だ。おそらくこの短剣は、武器としての価値は低い。


 だけど、これが何なのかは教えておく。


「このダンジョンの宝だよ。ダンジョンボスがいた部屋の奥にあった、島の伝承にある『封印の剣』だ」


「…………へっ?」


 マリスは固まってしまう。俺の言葉がよく理解できなかったようだ。


 そして徐々にその意味を理解していくと、口をパクパクさせた。


「えっ、あっ、はぁ? えっ? ど、どういうことですか? どうしてザインさんがダンジョンの宝を? て、ていうか『封印の剣』は、不死の王を斬り裂いた黄金に輝く聖剣だったはず!」


「だよな。どう見てもこれは黄金に輝く聖剣じゃない」


 だからマリスたちから『封印の剣』の話を聞いたときは違和感を覚えた。黄金には輝いてないし、そもそもこれは戦士が使うような長剣ではなくて盗賊が扱うような短剣だ。


「『封印の剣』についても、時代の流れと共に情報が変えられたんだろうさ。黄金の聖剣なんて誇張したほうが耳触りがいいからね」


 ディナは唇を曲げて不満をもらす。かつての出来事が形を変えて伝えられていることが、当事者としては気に食わないのだ。


 この短剣を入手したはいいが、使い方がわからなかったので、とりあえず所持しておいた。本物の『封印の剣』だとは誰にも信じてもらえないだろうから、地上に戻ってギルドで換金しても、大した値はつかないだろうと期待はしていなかった。


 ところが死神が俺に執着心を見せていたことから、『封印の剣』を所持しているとディナは見抜き、取り引きをもちかけてきたわけだ。


 ディナが言うには、死神の正体は『終焉の地』や不死の王を復活させないための番人だそうだ。ダンジョンを踏み荒らす者や、宝を持ち出そうとする者がいれば追跡して襲ってくる。


 とりわけ『封印の剣』を持ち出す者は、絶対に逃さない。真っ赤な瞳でやたらと俺を睨みつけて、ずっとこの短剣を返せ返せと言っていたのはそういう役目だからだ。


「ボ、ボスはどうなったんですか? 『封印の剣』を守っていた、『死者の栄光』のダンジョンボスは?」


「俺がこの短剣を持っているんだから、もういないってことだ」


『終焉の地』の封印を守る鍵は、誰にも知られることなく、とっくに全てが壊れていた。


 それを聞いてマリスはますます頭がこんがらがり、「あっ、えっ、えっ?」と短い声をもらす。状況についていけないようだ。


「そんなことより、今は死神だ」


 頬をゆるめて笑いかけると、こちらを見ているディナが頷いた。


 使い方のわからない『封印の剣』を投げて渡す。


 ディナは左手を伸ばすと、真下からすくいあげるようにして渡された短剣をつかみ取った。


 あとのことはディナに賭けよう。



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