第23話
濁った血が飛び散り、刃が奏でる金属音が鳴り響く。
灯火に照らされた通路を駆け抜けていき、目的地に向かって前進する。
ディナは颯爽と走りながら先頭に立ち、アンデッドナイトが目についたら迅速に解体していく。
後ろからはマリスが【攻撃の魔術】を放って、青い光をアンデッドナイトたちに命中させてダメージを与えてよろめかせる。
二人の連携で次々とアンデッドナイトが屠られていく。頼もしいことこの上ない。
体が思うように動かない俺にあわせて、ディナは走るスピードを落としてくれている。でものんびりはしていられないので、最低限の速さは維持していた。
二人についていくのがやっとのこの状態ではろくに戦えず、魔術だってまともに扱えない。
今の俺にできるのは、分かれ道があればどちらに向かうのか指示するくらいだ。
最下層の通路をアンデッドナイトを打ち倒しながら突き進んでいく。
そうして、そこにたどり着いた。
王城のエントランスさながらの一際大きな広間に踏み込む。魔物の気配はなくて、静まり返っている。
ぼんやりと目がかすむ。息も絶え絶えで、全身が気だるい。もう限界が近い。
それでも悲観はしない。間に合ったんだから。
広間の奥にあるそれが、瞳に映った。
神の加護でも受けているように、薄い光を発する透明な水が湧き出している。どんな傷も癒やして、どんな呪いも浄化する『回復の泉』だ。
あの泉に浸かれば、アンデッド化の呪いを浄化できる。
「もうやばいんだろ? さっさと済ませてきな」
「そうさせてもらうよ」
汗ばんだ顔でディナに笑いかけると、重たい足を動かす。
『回復の泉』に向かっていき、この身を苦しめる呪いを消し去る。
ようやくまともな状態に戻ることができる。
だというのに、俺と泉の間にある地面が波打ちはじめた。
「間が悪いにも程があるだろ……」
苦笑すると、足を引っ込めて後ろに下がった。
ディナが舌打ちをして、マリスは悲鳴をあげている。
揺れる地面から黒いローブが姿を現す。奇妙にねじ曲がった杖を右手に握りしめて浮遊すると、顔中に巻いた包帯の隙間から真っ赤な目を光らせてくる。
「……カ……エ……セ……」
死神が濁った声をもらして見つめてきた。
「ここまで来て邪魔するとか、俺のこと好きすぎだろ」
冗談めかして軽口を叩いてみるが、心音はうるさく鳴っており、余裕なんてない。
あともう少しだっていうのに、ついてないな。
「やるしかないね」
ディナは決然と言い放つと、両手に握るダガーを構える。
「や、やるってホントに? ホントに死神とやるんですか?」
目に涙をにじませてマリスが問いかける。戦ってどうにかできる相手ではないと理解しているのだ。
「やらなきゃ、殺されるだけだ。それが嫌なら覚悟を決めな」
ディナが横目で睨むと、マリスは「うぅ」と唸りながら杖を構えた。
杖の先で狙いを定めると【攻撃の魔術】を発動。連続で青い光が放たれて飛んでいく。光が弾けて炸裂音を響かせ、浮遊する死神に命中する。
無傷だ。死神にはマリスの魔術が全く通じていない。
「ほ、ほらぁ! やっぱり、やっぱりきかない! どうするんですかぁ! ど、ど、ど、どうするんですかぁ!」
マリスが杖を振りまわしながら泣きわめく。さっそく俺たちについてきたことを後悔しているようだ。
「まっとうなやり方じゃ、殺せないか」
ディナは構えを解くと、手に握る二刀のダガーを両腰の鞘に収めた。
その行為にマリスは「え?」と間の抜けた声をあげる。もしかして戦うのを諦めたのかと思っているようだ。
そうじゃない。空手になったディナは俺に目配せをしてくる。
「ここまで守ってきてやったんだ。アレをよこしな」
俺とディナの間で交わされた取り引き。その報酬を求めてくる。
「そうしたらわたしが、死神をなんとかしてやるよ」
死神を倒す。そう断言してくる。
あまりにもディナの発言がわけのわからないものだったので、マリスは目を白黒させている。
俺もよくわかっていない。ダンジョンの理不尽そのものである死神は、どう足掻いても倒すことができない難敵だ。そんなのをディナは打倒するつもりでいる。
「このままだと『回復の泉』に入れないよ。それは困るだろ?」
ディナが片眉をあげて、視線で尋ねてくる。
確かに困るな。せっかく『回復の泉』が目と鼻の先にあるんだ。ここでアンデッドになるなんて、死んでも死にきれない。
「本当に死神をどうにかできるんだな?」
「あぁ、確実に仕留めてやるよ」
クヒヒヒヒヒヒと笑ってくる。虚勢でもなんでもなくて、勝利を確信している笑みだ。
「……ま、そういう取り引きだったからな」
ディナはちゃんと取り引きの内容を満たしてくれた。俺を『回復の泉』がある場所まで守って連れてきてくれた。
だったら、こっちもそれに応じないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます