リア充が爆発した

@JULIA_JULIA

第1話

 一度くらいは耳にしたことがあるだろう。いや、『目にしたこと』かもしれないが・・・。まぁともかく、それは───『リア充爆発しろ』という文言である。


 その文言を見聞きしたことが、一度くらいはあるだろう。それは、非リア充による魂の叫びだ。そんな叫びが神に届いたのか、はたまた悪魔に届いたのか。とにかく実際に、リア充が爆発した。




 それは、羽田空港の第三ターミナルで起きた。なんの前触れもなく起きた。午後四時二十七分のことだった。仲睦まじく腕を絡ませて歩いていた男女が突然爆発したのだ。それを皮切りに、日本各地でリア充が爆発し始めた。その原因は不明。しかしながら警察を含めた各種機関の調査によると、爆発したのは皆がリア充だったとのこと。


 その調査結果が報告されるや、テレビは熱心に取り上げ、インターネット上には様々な情報や書き込みが拡散された。『リア充爆発』、『爆発するのはリア充のみ』、『リア充、草』、『リア充ざまぁ』、『リア充、乙』『リア充じゃなくて良かった』などなど。


 しかしそれらは、リア充の爆発を目の当たりにしなかった非リア充や、リア充の爆発の詳細を知らない非リア充によって書き込まれたものだった。つまり、『リア充が爆発した』という断片的な情報しか知らない非リア充による書き込みだったのだ。そんな中、一つの書き込みが注目を集め、拡散されることになる。


『非リア充は今すぐ日本から脱出しろ』


 それは、リア充の爆発を目撃した非リア充の書き込みだった。






 たしかにリア充は爆発した。しかし彼ら彼女らは、全員が無事だった。命を落とすどころか、傷一つすらも負わなかった。そして、爆発に巻き込まれた人々も同様だった。しかしながら、無事では済まなかった者もいる。それが、非リア充だ。


 リア充の爆発は凄まじく、その威力は半径五十メートルにまで及ぶ。その範囲内にいる非リア充は軒並み死亡。リア充や建物などに被害は全くなく、被害を受けるのは『非リア充のみ』なのだ。しかも、全員が即死である。


 それは、なんとも不可思議な現象だった。科学的には解明のしようがない。建造物をすり抜けて人体に被害が及ぶ爆発。しかも被害者を選ぶ爆発など考えられない。よって科学者たちはさじを投げ、完全な解明が進む筈などなかった。


 とはいえ、被害の把握はしなければならないし、被害を減らす方向に持っていかねばならない。科学者にしろ、警察にしろ、政府にしろだ。そうして分かってきたことの中に、一つの事実があった。


 どうやら爆発の原因は、リア充が極度の幸福感に包まれた瞬間に起きるらしいのだ。つまり、リア充が極度の幸福感を得なければ爆発は起きないし、そもそもリア充がいなければ爆発は起きない。そのためリア充の消滅を掲げる人間たちが、やがて現れることになる。そう、非リア充の過激派だ。


 とはいえ、政府やその他の機関がリア充を処刑することはできないし、処罰することすらもできない。いくらなんでも、『リア充だから』という理由でそのような真似はできない。また、『リア充になるのは、やめましょう』とも訴えられない。『リア充』とは、つまりは『幸せな人々』のことであるからだ。国民に向かって 、『幸せになるのは、やめましょう』などと、どこの誰が言えるだろう。少なくとも政府やマスコミがそんなことを言う筈がない。


 さて、リア充の爆発は深刻な事態である。しかしそれは、『非リア充にとって』である。いくらリア充が爆発しても、リア充は被害を受けないし、人間以外の動植物や、建物を含めた無機物なども被害を受けない。被害を受けるのは、『人間の非リア充のみ』なのだ。


 仮に、とある一軒家に引き籠っている非リア充がいたとしよう。その家の前をリア充が通る。そして、なんらかの事柄により、そのリア充が極度の幸福感に包まれたとする。そうなると、半径五十メートルの爆発が起きる。つまり家の外に出なくても、非リア充は爆発に巻き込まれ、即死する。よって、『非リア充は今すぐ日本から脱出しろ』という書き込みが拡散されることになったのだ。


 しかしながら救いの手は、他にもある。それは、『リア充になること』である。そうすれば被害を受ける心配はない。そのため非リア充たちは必死になり、躍起になった。そうしてリア充になるよう努力し、妥協した。


 今までならば交際相手としては考えられなかった相手と付き合い、リア充になろうとした。しかし、それでは不十分だった。そんな偽装交際では、リア充にはなれない。そんな生活を送っても、リア充とは言えないからだ。


 しかしながら、そういう偽装交際がやがては真実の交際に発展する場合もあった。初めは互いに相手のことを好きではなかったが、デートを重ねるごとに愛着を感じ始め、唇を重ねるごとに愛情を感じ始め、ついには体を重ねる行為に至ったのだ。そうなれば、彼ら彼女らは間違いなく、リア充である。


 そうして多くの非リア充の中から、幾何いくばくかのリア充が生まれ、新たな爆発を生んだ。そのため非リア充はどんどんと数を減らしていき、ついには日本から非リア充はいなくなった。そんな中、とある男子高校生が一つの事実に気付く。




 最初のリア充の爆発。その場所は、羽田空港。時刻は、午後四時二十七分。




「これ、もしかして・・・」


 昼休み中、学校の中庭にあるベンチに座っている男子高校生はスマホを見つつ、怪訝な顔をした。すると、その隣にいる女子高校生が訊く。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと気付いたんだけど・・・。初めてリア充の爆発が起きたのって、大田区おおたくの四時二十七分なんだ」


「それがなに?」


「だから、『大田区おおたく、四二七』・・・。つまり、『オタク、死にな』ってことじゃないかな?」


「はぁ? 意味わかんない。・・・それよりも、ね?」


「う、うん・・・」


 二人の高校生は唇を重ね、そして爆発した。



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