第十一話 - 真也の記憶

 ——最悪だ。


 21時に店を閉めて、レジの金を数えた。そして片づけをしてたときに気づいた。

 金はなくなってなかったが、レジの裏に飾ってたScarlet Revolutionの限定版がなくなってた。


 いや、正確には、ジャケットはあるが、中身のレコードが消えちまってた。


「そんな……バカな」

 全身が震え、冷たい汗が背中を伝う。頭の中で警報が鳴り響く。

 どういうことだ? いったい、いつなくなったっていうんだ?


 レコードはずっとレジ裏の壁に飾られてた。レジは店の奥にある。

 入り口はレジの正面だ。俺はほとんどずっとレジに立ってたし、入り口から来た客は全員見てる。俺に気づかれずにレジに入ることは不可能だ。


 大事なレコードだ。ジャケットの中にレコードが収められてることは毎晩確認してる。昨日の閉店時には、確かにあった。

 夜中に盗まれたのか? いや、それなら灰谷が何か言ってきてるはずだ。


 灰谷……。


 午前に客は来なかったとあいつは言ってた。それは本当だろうか?

 灰谷は抜け目ねえ男だ。盗難があって、あいつがそれに気づかないとは思えねえ。あいつは午前中ずっとひとりでいた……。


 猛烈な勢いで頭を振った。

 あいつなわけがねえ。あいつはこんなせこい盗みをする男じゃねえ。


 俺は灰谷を信じる。

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