第10話 迷子を保護してただけだから
「よしよし、もう大丈夫だからね」
「ままが、ひっぐ、ママが………!」
「うんうん、いい子いい子していればママがきっと探しにくるから」
「うわあぁああ~ん」
「あら~………」
椅子に腰かけて少しだけ休もうとしたところ、迷子の女の子が現れた。
必死にママって泣き叫びながら通り過ぎて行こうとしたので慌てて駆けつけた。
母親とはぐれた状況なのは明らか。
それなら母親も探してる可能性が高いと踏んでひとまず保護するつもりで膝の上に座らせたまではいいけど………。
困ったなぁ。
どこらへんではぐれたのか聞こうとしたけどパニクってるのか大声で泣いてるせいでボクの声なんかまったく届かない。
でも子供って周りの雰囲気に人一倍敏感だってよく言ってたような気がする。
ここでボクが困った顔したりそういう雰囲気出したらさらに不安になってもおかしくない。
声が届かなくても必死に必死になだめてみますか。
「うわあぁああ~ん………ママが、ままあぁぁ~」
「大丈夫だから、ママもきっと探してるはずだから。ね?」
その心掛けで膝の上の子が安心できるようって気持ちを込めて必死に話しかけながら頭を撫で続ける。
母親とはぐれちゃったショックで泣いてるはずだけど、きっと。
なんか、うん。
メチャクチャ独特な泣き方するよね、この子。
ちょくちょくネタにされてた事件性が匂わせる泣き方ってこういうことかな。
「よしよし」
「ぐすっ、ひっぐ、ままが、ママがあぁ………」
「わたしとはなれちゃっておもちにかわっちゃうぅぅ」
「え?!」
「外で………ひっぐ、ママとはなれたら、ひっぐ………おもちになるからはなれないでっていったのに、ひっぐ、わたしかわってなくて、ううぅ………」
それだけやっと口にして迷子ちゃんが再び泣き出す。
おもちってニュアンス的に食べる餅で合ってるよね。
これあれかな。
外ではぐれたりしないように迷子に子供に適当な嘘吹き込むやつ。
そりゃあ訳ありな独特な泣き方になっちゃうわけだよ。
「戻りましたホタル様、ってその子は」
「おかえりストちゃん。どうやらこの子、迷子みたいでさ」
困り果ててたその時、用事が済んだストちゃんが戻ってきたのでざっ現状説明。
最後まで真剣に聞いてくれたストちゃんが最初の困惑した顔から心配げな顔色に変わる。
「なるほど、心細い思いしてるから安心させる膝に座らせて甘やかしてたんですか」
「そこまでは考えてないけど」
「じゃ、じゃあこの子くらいの歳の子が好みって私に見せつけたくて座らせたとか………?」
「どうしてそうなるの………母親も心配であちこち探してるはずだからさ、それに日が暮れ始めてるしひとりにはできないでしょ」
ストちゃんの発言も謎だけどボクの返事と妙に会話が成立しちゃってない?
保護するつもりって言えばいいのに無駄に弁明っぽくなってる。
妙にトゲが感じられるけど気のせいだよね。
「まだ子供ですし大丈夫でしょう」
「??」
「でしたらその子の母親がいらっしゃるところへ私たちが向かいましょうか」
ぱあっと一日ですっかり見慣れた慈愛に満ち溢れる女神の微笑みのままそんなことを言うストちゃん。
やっぱりボクの気にしすぎだったかぁ。
「そうしたいのは山々だけど………長距離はちょっときついかも」
本当は保護だけじゃなくて落ち着いたら一緒に探してあげたかった。
けどさっきこの子に歩み寄ることで体力が残量切れになってる。
最後まで助けてあげられない自分が情けなさすぎるよ………。
「疲れてるホタル様にこれ以上無理をさせるつもりはありませんよ」
「え」
こんな情けない状態にも関わらず気遣ってくれるのは嬉しいけど………。
じゃあ、どうやって向かうつもりだろう?
当たり前に浮かぶ疑問はすぐ解けた。
「ちょっとお手、乗せますね」
そう一言断りを入れたストちゃんが未だ泣き止まないままの迷子ちゃんの頭にそっと手を乗せてほんの数秒後。
片方の手でパチンと指を鳴らすと聖堂の前からボクたちが通って来た街の中へと周りの風景がガラッと変化する。
なるほど。
「ワープね」
「これでしたらホタル様だって疲れないですし、迷子ちゃんも助けられるかと思いました」
確かにこれなら体力面でも問題ないし一発で母親と会わせてあげられるから一石二鳥だね。
「ホーリ………?」
「まま………」
「ホーリ!!」
「ママ!!」
膝の上にちょこんと座っていた迷子ちゃんがボクから離れてそのまま母親らしき人に抱きつく。
「うちの子を探して頂き本当にありがとうございました」
「お姉ちゃんたちありがとう!」
「おね………」
「いえいえ。これからはお母様から離れちゃダメですよ」
お姉ちゃんたちってもしかしなくてもボクまでカウントされてるよね。
子供からも女の子にしか見えなくなったんだ………。
「良かったですね」
「そうだね。あの子がやっと笑ってくれて本当によかったよ」
そのまま仲良さげに歩き出す母娘を尻目に当たり前な感想だけ交わし合う。
やっぱり泣き顔より笑顔が子供に似合うからね。
女の子だって誤解されたままで別れたのは若干不服だけど………結果良ければ全てよしって言うし、水に流そうかな。
「ありがとうストちゃん」
心からのお礼を込めて隣にいる女神な恋人にそっと伝えた。
自力で最後まで手助け出来なかったところがやるせない感があるけど、ボク一人じゃきっと頼りなかったはずだ。
ぶっちゃけ膝の上に座らせる以外何も出来なかったしね。
ピッタリなタイミングに来てくれて、いや。
ボクのところへ来てくれて本当に良かった。
「そういうところですからね、もう」
「へ? 何が?」
「やはり見た目と声だけじゃ足りなかったんでしょうか………」
「??」
「なんでもありません。帰りましょう、ホタル様」
ブツブツと呟いてたけど声が小さすぎて何も聞こえない。
それにその台詞、好意に気づかずガンガン踏み込むタイプの鈍感な主人公に言うやつじゃなかったっけ。
今のタイミングで言うのおかしくない?
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