第9話 彼女に街の案内されるのはデートか否か
「まずはどこへ向かいましょうか?」
「とりあえずは街………なんて言ったら中途半端すぎるよね」
「私たちが立っているここも待ちですから」
「うーん………じゃあ、メインストリートとか一通り回ってみることでどうかな」
「かしこまりました」
「にしてもこの服にする意味あった?」
「大変お似合いです。とても可愛らしいですよ?」
「そこが問題って言ってるのに………」
ツッコミを入れつつ街の方へ歩みを進める。
今日はストちゃんに転生した街を案内される日。
さっそくボクたちは街へ繰り出している。
と言っても起きてから時間がそこまで経っていない。
出かけるためいそいそと向かった風呂場に何故かストちゃんがついてきて「今日は女神のパワー使いましょう」なんて言って魔法で身体の汚れから着替えまで一通り済ませてくれたのだ。
ここまでは尽くしてくれるストちゃんに感謝しかなかったけど問題は彼女がボクに着せた服装。
気がつくととこからどう見ても女の子としか思えない服装に身を包んでいた。
短いミント色の短パンに鎖骨がチラッと見えるシャツ、太ももまで丈が伸びるタイプの黒色のカーディガン。
どこからどう見ても女の子じゃん………。
一番悔しいところは姿見で確認した時つい「あ、可愛い」って声が漏れたところ。
「お揃いの服装にしたかったので、ごめんなさい♪」
しれっと恋人繋ぎで隣を歩くストちゃんもボクと同じ服装だった。
唯一の違いがあるとすれば彼女は短パンではなくスカートってところかな。
「次はスカートにチャレンジしてみるのは」
「そこが問題じゃないって分かってるでしょう、もう」
「ふふっ」
お揃いの服は恋人感がグッと増して確かに嬉しいけど………。
女の子みたいな服装は心のどこかで抵抗が芽生えてしまう。
「どんどん私色に染めてるみたいでゾクゾクしちゃいます………」
「?」
ストちゃんが何か呟いてるけど声が小さすぎて上手く聞き取れないなぁ。
まあ、どうせまたボクの服装が可愛いだなんだ言ってるんでしょう。
触らぬ神に祟りなしって言うし、ここは流すか。
「じゃあ今日は街の案内のことよろしくね」
「任せてください。しっかりと案内いたします」
「ここが………」
「こちらがホタル様を転生させた街————————————ヘルラの中心地です」
家から徒歩で十分ほど歩くと賑やかな喧噪に包まれる。
現代とも中世とも全く違う建物がずらりと並ぶ街並み、ラノベやマンガで見たザ・ファンタジーっぽい大剣や杖をぶら下げた者から普通の装いで声を張り上げる者まで様々な人々の姿がそこに集っていた。
「でも中心地………えっと、日本風に言うと繁華街になるかな」
「おそらくですがそうなるかと」
「その割には人が全然少ないね」
マンガやラノベで描かれる異世界の繁華街はどちらかというと座間様なタイプの人でごった返している印象が強い。
けどここはそれよりも人が全然少ないように見える。
「私が転生させたここ、ヘルラは田舎に属されます」
「やっぱり」
道理で人が少なすぎたと思ったよ。
「ファンタジー的な建物とのんびりした雰囲気が一番の特徴です。この世界では争いが起きてないため気楽に暮らせるのがポイントです」
「人がかなり集まってるところが見えますか?」
「うん、見える。あそこがギルド支部だったりするの?」
「いえ、酒場ですよ」
「昼から盛ってんじゃん!?」
「酒場だけに、ですね」
昼から営業してる酒場は日本でもそう珍しくなかったから納得いくけど、昼からあれだけ人でごった返してるから内心ビックリしてる。
というか女神もこういう冗談口にするんだ。
「ちなみに隣のがらんどうの建物がギルド支部になります」
「うそ!?」
ギルド支部って人でごった返していて、時々ガラの悪い冒険者なんか現れて場をかき乱したりするところじゃなかったの?
戸惑うボクに「やはり」というニュアンスの和やかな口調でストちゃんが説明してくれた。
「日本のサブカルチャー………えっと、アニメとかでしょうか」
「うん、それとマンガとか小説とかで何となく知識はあったけど………やっぱり実物は違う感じ?」
「そうなります。ギルド支部からクエストを請け負って決まった報酬が支払われるまでは同じですが、人の出入りはあっても支部長が居たり受付の可愛いお姉さんが居たりはしませんよ」
「そうだったんだ」
「受け付けの可愛いお姉さんはいないんですからね」
「何故そこだけ二回言うの」
しれっと釘刺して来たよこの女神。
そこが本物の異世界と創作との違いだったんだ。
意外なところで枝分かれしていて面白い。
「クエストの貼り紙を掲げる係の方はいらっしゃいますけどね。気になるのでしたら一度立ち寄ってみますか?」
「ううん、それより次行こう次」
「ふふっ、かしこまりました。では次に参りましょう」
次から次へとそれからストちゃんの現地案内が続いた。
武器などクエスト向けのモノを扱う鍛冶屋から服を扱ってる服屋、アクセサリーショップも紹介されてたっけ。
ただただその場に直接向かって話を聞くだけで楽しい。
異世界の光景、何よりストちゃんが管理する世界の穏やかに暮らせる街の紹介だって思うと何故か嬉しくなっている自分にビックリしていた。
「この街の中でしたら後は聖堂と市場でしょうか」
「思ったより広い街だね、ここ」
「田舎の中でも暮らしやすい方に属しますからね、住宅街は後で向かいましょう」
「一通りが結構あるところだけ人通り回った感じだったね、そういえば」
「別の町と繋がる門とか街はずれに位置していますので徒歩では数時間かかっちゃいますから無理です」
「マジで一日じゃ終わらないじゃない」
「えへへ、今度は魔法使って一緒に行ってきましょう? ホタル様」
「それすっごいデートっぽいじゃない。こっちからお願いしたいくらいだよ」
「で………!?」
急に壊れた機械みたいに真っ赤にして固まったけどどうしたんだろう?
恋人だからデートするのは普通じゃないかな?
ってかなんで体力がこんなに削られてるのかな。
女神の加護は常時発動しているはずだけどどうして。
「ストちゃん」
「は、ひゃぃいっ!」
「ちょっとしんどいけどこれの原因知らない?」
「やっぱり疲れちゃいましたか………昨日は休ませて正解でした」
「?」
「私の、せいで………無理矢理この世界に飛んできたじゃないですか。身体がこちらに馴染もうとして体力の消費が倍になっているんです」
「なるほど………」
倒れたこともそれと関係あるって感じかな。
「本当は催眠の副作用で体力が並の女の子レベルに低下しちゃってるみたいですけど………」
「聖堂着いた………! あ、ごめんね、なんか言おうとしてたの?」
「大した事じゃなくてその、聖堂に用事がありますからこちらで少々お待ちして頂けるか伺おうとしてまして」
「聖堂に来た理由があったの?」
「聖女がありますので顔出しくらいしておいた方がいいかと」
「なるほどね」
突然こちらに住むことになったんだし聖女は神とコミュニケーション取る描写が多い。
となれば聖女に一度くらい顔合わせしておいた方がいいって感じかな。
「じゃあボクはここで待ってるから」
「一緒に来ても全然平気ですよ?」
「少しでも体力が戻ったら入るから」
「わかりました。何かあれば心の中で私の名前を強く唱えてください、すぐ駆けつけますから」
「りょーかい」
返事したらストちゃんが恭しく頭を下げて「では行ってきます」と言い残し、そのまま聖堂へ。
さて、何しながら待った方がいいかな。
「さすがにボクが一緒じゃ気まずいでしょう」
女神が突然、人間のボクと一緒に入ったら聖女だって気が気じゃないはず。
ストちゃんが一通り説明してくれた後だったら幾分かマシだけど一緒に入る勇気はさすがにないかな。
体力が限界なのも本当だし。
聖堂近くにある椅子に腰かけ、ぼんやりと空を見上げる。
「うゎああぁあ~ん。ママ、ママ………」
「こんなところに子供が………?」
泣き声にしか聞こえない方へ視線を向けたら小さい女の子が大泣きしていた。
あれってどう見ても迷子、だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます