第6話 遺跡の奥で待つもの
開かれた扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。薄明かりが辺りを照らし、巨大な石柱が天井へと続いている。中央には神殿のような祭壇があり、その上に何かが置かれていた。
「ここが遺跡の最深部か……」
私は祭壇に向かって慎重に歩を進めた。
リクスも無言のまま後をついてくる。その様子がどこか緊張しているように見えた。
「何か知っているの?」
私は振り返り、問いかけた。
「ここはただの遺跡じゃない。神々に近づこうとした者たちの足跡だ」
リクスの言葉には妙な重みがあった。
祭壇に近づくと、そこに置かれていたのは一振りの剣だった。黒く光る刃と、無骨ながら美しい装飾が施された柄――その剣は明らかに特別なものだった。
「これが……遺跡の秘宝?」
私は手を伸ばしかけたが、ふと嫌な予感がして止まった。
「待て。その剣には何かが宿っている」
「宿っている……?」
その瞬間、剣が微かに輝き、空気が一変した。遺跡全体が振動し、石柱が揺れ始める。
「なんだこれは!」
私は慌てて剣から手を引いた。
すると、祭壇の周囲に光の輪が現れ、その中から人影が浮かび上がる。鎧を身にまとった壮年の男――いや、その姿は実体のない幻影のようだった。
「……これが、この遺跡を守る者か」
リクスが小さく呟く。
幻影の男は低い声で語り始めた。
「この剣を手に取る者よ。我が問いに答え、覚悟を示せ」
問い……?私は困惑しながら、幻影の視線を見つめた。
「問いに答えられねば、この地に足を踏み入れたことを後悔することになるだろう」
幻影の言葉が終わると同時に、遺跡全体が一瞬静寂に包まれた。そして次の瞬間、空気を裂くような音とともに、私の目の前に敵が現れた。それは以前戦ったゴーレムとは比べ物にならないほど巨大で、全身が輝く鎧で覆われていた。
「これが本来の試練、というわけか」
私は剣を抜き、構えた。
「ラミエッタ、気をつけろ。この敵は今までのどれとも違う」
リクスの言う通り、敵の動きは速く、一撃一撃が重い。その剣をかわすたびに、遺跡の床が砕け散る。
「どうする……? こんなの、まともに戦ったら勝ち目がない!」
だが、私は気づいた。この敵の動きには隙がある。全力で攻撃を繰り出した後、一瞬だけ動きが止まるのだ。
「そこだ!」
私はその隙を狙い、敵の鎧の関節部分に剣を突き刺した。
敵が一瞬怯んだその隙を逃さず、さらに追撃を加える。
「やるじゃないか」
リクスが感心したように呟く。
そしてついに、敵は大きな音を立てて崩れ落ちた。
◇◇◇◇◇
敵を倒した後、遺跡の振動は収まり、再び静寂が訪れた。
幻影の男が再び現れ、静かに語りかけてくる。
「試練を乗り越えた者よ。その覚悟を見せよ。この剣を持つということは、その力と責任を受け入れることを意味する」
私は剣を見つめた。この剣を手にすることが、どれほどの重みを伴うのか――その意味が、少しずつ理解できた気がした。
「私は、この剣を受け入れる」
覚悟を決めた私は、静かに剣を手に取った。
その瞬間、剣がまばゆい光を放ち、私の手に吸い込まれるような感覚がした。同時に、体の奥底から力が湧き上がる。
「これが……遺跡の秘宝……」
幻影の男は微笑み、消えていく。
「これで終わりじゃない。この剣の力がどんなものか、これから試されるだろう。」
男がそう言い残し、遺跡の出口に向かう。
私もその後を追った。この剣が私にもたらすものが何なのか、まだ分からない。それでも、私の旅はここから本当に始まるのだと感じていた。
第一章 完
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