剣聖娘は乙女心を忘れたい!!

小林一咲

第1章 旅立ち - 剣聖の娘、自由を求める

第1話 旅立ちの朝

「ラミエッタ、お前は今日から一人で生きていくんだ。この家の名に泥を塗ることだけは許さんぞ」


 家の中に響く父の声。まるで剣の刃先が心に突き刺さるような冷たい言葉だった。父、スバルトフはこの十五年間ずっとこうだった。私を娘としてではなく、一人の剣士――それも未熟な弟子として見てきた。


「分かってるよ、父さん」


 私の声はどこか乾いていた。十五歳の成人を迎えた今日、私は独り立ちの旅に出る。それは剣士としての試練であり、剣聖の名を背負う者としての責務だった。


 しかし、その旅は単なる冒険ではない。向かう先は「シェルカの遺跡」。魔族が築いたとされる古代の遺跡だ。そこに眠る聖剣を持ち帰ることが、私に課された使命。父から与えられたこの試練に失敗すれば、剣聖の名に泥を塗ることになる。それは私の存在そのものを否定されるに等しい。


「成人したからこそ、女らしさなんて不要だ。剣士としての誇りを忘れるな」


 ――またそれだ。


 父の口癖はいつも同じ。「女らしさなんて捨てろ」。小さい頃から何度も何度も聞かされてきた。

 私の胸の奥がチクリと痛む。「女らしさを捨てる」ことが、そんなに大事なのだろうか?それとも、私が弱いから父の言葉に疑問を抱いてしまうのだろうか?


 けれど、問いかけても無駄だと知っている。父にとって、「強さ」こそがすべて。感情も、弱さも、守るべき者さえも、全てを捨て去った強さだけが、剣士として生き抜く道だと思っているのだから。


 私はそれ以上何も言わずに剣を腰に差し、家を出た。外の冷たい空気が頬を撫でる。振り返らない。父が見送ることなんて、最初から期待していないから。


 ◇◇◇◇◇


 家を出て、どれくらい歩いただろう。私はふと立ち止まった。目の前には、広がる大地と遥か遠くの山々。澄んだ青空がどこまでも続いている。


「やっと自由になれるのか、それとも……」


 独り言のように呟く。自由と言えば聞こえはいいけど、結局父の試練から逃れられたわけじゃない。魔族の遺跡から聖剣を持ち帰る――それが私に課された使命だ。もし失敗すれば、剣聖の娘としての名誉も何もかも失ってしまうだろう。」


 目指す遺跡には、剣士を試す仕掛けや罠が数多く存在するという。そしてそこには、まだ魔族の気配が残っているとも聞く。強さを証明するには十分すぎる試練だ。でも、それだけじゃない。この旅は私自身の心を試す旅でもあるはずだ。


 剣士としての私、そしてただの私。どちらが本当の自分なのか、どちらが望んでいる道なのか――その答えを見つけられるだろうか?


「ふぅ、考えても仕方ないか」


 私は自分に言い聞かせるように呟き、剣に手を置いた。そして一歩、また一歩と歩き出す。


 この旅がどんな結末を迎えるのか、まだ分からない。でも、私は行く。剣聖の名に恥じないために、そして私自身のために。


「さあ、行こう!」


 私は広がる大地を蹴り、世界へと飛び出していった。


 未知の遺跡、未知の出会い、そして未知の自分を追い求めて。


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お読みいただき、ありがとうございます。

ファンタジーを中心に書いております、小林こばやし一咲いっさくと申します。

以後、ご贔屓によろしくお願いします🥺


もしこの物語を楽しんでいただけたなら、他の作品もぜひチェックしてみてください。


『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』

https://kakuyomu.jp/works/16818093078401135877


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