みたな

雛形 絢尊

第五話

夜道は怖い。

敷かれたレールを辿るように道を歩く。

然し乍らやはり怖い。何かに

追われているような気がする。

残業がやたら多いので帰りの時間も遅くなる。

速度を徐々に上げ、その道をひたすら歩く。

振り返ってはいけない気がする。

ここで振り返ってはいけない気が。

夜道はやはり怖い。何かに満ちていて怖い。

二階建ての窓、シャッターの軋む音、

そのどれもがやたらと怖い。

犇く住宅街、しんとした踏切。

そのどれもがやたらめったら怖い。

いや、俺は見てない。

見ていないと言うことにしておこう。

そうでもしなければ私は気が狂い立ちそうだ。

やたらとその不特定多数の不安を催し、

燦然たる不安を脳裏に浮かばせる。

信号機が黄色になる。

澱んだ心の渦を情に写し、

改札が閉まるまでに線路に立ち入る。

軌道修正が不可能な車体は

轟々とこちらに寄ってくる。

私は何を見てしまったのか、

何故見てしまったのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る