長いよエンドクレジット!
ちびまるフォイ
映画のための専用映画館
「ついにできたぞ! 最高の映画だ!!」
映画監督の苦節100年の集大成。
多額の資金の時間をかけてできあがった超大作。
名探偵・歩きスマホの事件簿の最高傑作になるだろう。
さっそく関係者内で試写会を実施。
本編が終わるとスタンディングオベーションが行われた。
この映画のすばらしさの確かな手応えとなった。
そして長すぎるエンドクレジットに
万雷の拍手も徐々にしぼんで着席しはじめた。
あんなに感動していた観客は
文字だけが流れる退屈な画面に飽き始めスマホを手に取る。
エンドクレジット後になにかあるのでは、と
離席もできないので劇場はうんざりした空気感。
すべてが終わってから感想をきくと悪いものばかりだった。
「いや本編は楽しかったけど……クレジット長すぎ」
「本編はよかったよ。でももう見ないかな。拷問だよ」
「前世で何をしたらあのエンドクレジットを見せられるの?」
終わりよければすべてよし……の逆。
本編の良さをエンドクレジットがすべて台無しにしていた。
監督は頭をかかえた。
「どうしよう……。やっぱり本編より長いエンドクレジットはまずかったかぁ……」
100年もの歳月を重ねて撮りためられた大作。
かかわる人も会社も膨大だ。
どうしてもエンドクレジットは長くなってしまう。
「なんとか交渉してみるか」
監督はクレジットから消しても良いかと、
関わり度合いの薄い順に声をかけて回ることにした。
結果は誰しもが想像できるものだった。
「そんなことムリに決まってるでしょう!?」
「はは……やっぱりですか」
「なんのために協力したと思ってるんですか」
「でも、あなたの会社のロゴも出してますけど
本編に登場するのもごくわずかでしょう」
「こっちは金を払ってるんです。
いわば広告費。クレジットから消されたらそれこそ意味がない」
「でも映画の本編よりも、エンドクレジットが長いというのも……」
「それはあなたの手腕でしょう?
どうにかしてこそ映画監督なんじゃないですか」
「ふええ……」
どこに声をかけても反応は同じもので、
自分を消すくらいならほかをクレジットから追い出せというものだった。
「どうしたものかなぁ……」
映画監督は悩んだ末に解決策を求めて他の映画を見た。
とある映画ではエンドクレジット中にも右にショートフィルムを流していた。
「こ、これだ! エンドクレジット中にもNGシーンや、
なにか短い特典映像を流そう! これなら退屈しないぞ!」
監督はすぐに映像会社へと声をかけた。
「ショートフィルムを? もちろんいいですよ」
「やった! ありがとうございます!」
「でも、ショートフィルム用のクレジットも追加してくださいね」
「え?」
「本編制作スタッフとは別の人が作りますから。
関わる人間が増えたらエンドクレジットに載せてもらわないと」
「エンドクレジットを退屈させないために作るのに、
作った結果、エンドクレジットがさらに伸びちゃうんです……?」
「監督。あんたまさか映像だけ作らせて、クレジットには載せないつもりですか?」
「観客を退屈させたくないだけですよぉ!」
エンドクレジット用のムービーを準備する計画は、ものの見事に腰からへし折れた。
NGシーンを取り寄せることですらエンドクレジットが長くなるという。
その後も監督や関係者との調整は続いたが、相手が折れることはなかった。
「い、いっそエンドクレジットにすべてではなく
オープニングで半分。エンドクレジットで半分出すという分割は……?」
「監督。何言ってるんですか。最後に出すからいいんでしょう」
「エンドクレジットではなくパンフレットに載せるというのは?」
「あんなの誰が読むんですか」
「スクリーンにQRコードを出して、スマホでクレジットを見てもらう作戦は!?」
「スマホじゃなかったら見れないでしょう」
「もう本編をL字画面にして、ずっとクレジットを流すとかは!?」
「監督。あなた本当に映画撮ってるんですか。
そんなのしたら目障りに決まってるでしょう」
「じゃあどうしろっていうんだよーー!!!」
映画監督は否定ばかりされたことで精神を病んでしまった。
小さな四畳半のアパートに引きこもり天井を壁を眺める日々。
天井や壁のシミを数えているとき、映画監督はある秘策を思いつく。
「こ、これだ……! これならエンドクレジットを短縮できるぞ!!!」
監督はすぐに行動へと移した。
総工費は高くついたが話題性も確保できると自信があった。
新しく出来上がった専用の映画館は、特徴的な作りに観客はこぞって足を運んだ。
映画が公開されると本編の大どんでん返しに観客は驚く。
そして短くなったエンドクレジットにより、以前よりも不満はなくなった。
映画を見終わって満足そうな顔の客に対し、監督は身分を隠して感想を聞いた。
「この映画どうでした?」
「いやあ、本当に驚いた。まさかスマホ探偵が犯人だったなんて」
「そうですか、そうですか。それはよかった」
「でも一番驚いたのは……」
映画を見た観客はみな同じ感想だった。
「壁と天井を含めた4画面スクリーンの映画館なのに、
それ使うのエンドクレジットだけだったのが一番驚きでした!」
4画面でクレジットを別に流す作戦は好評だったという。
長いよエンドクレジット! ちびまるフォイ @firestorage
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