9話 勇者の血

今起こったことをありのまま話すぜ

なんて冗談言ってる場合じゃない

今なんて言った?捕えなさい?いやいやまだなにもやらかしていない、きっと聞き間違いだろうそのはずだ


「今なんて言いました?」

「あら、聞こえなかったかしら?捕えなさいと言ったのよ、ほらハンス。何をしているのかしら、さっさと捕えなさい。」

「姫様?急にどうしたのですか?」

「いいから早く捕えなさい」

「…はぁ、理由は後で聞きますよ。すまない君、少しついてきてくれないかい、手荒な真似はあまりしたくないんだが」


聞き間違いではなかった

え、俺なんかした?なんで?え?ええ?


俺が戸惑っている間にもハンスとか呼ばれたおっさんは俺を捕えるべく動き始める

先ほどは俺のすぐ正面にいたのだが気づいたら背後にいる

そのまま手刀で意識を落とそうとしているのは気配でなんとなく分かったためダッキングで躱し風魔法と身体強化を同時に発動して一旦距離を取る


まだ同時発動には慣れていないため余計にMPを消費してしまい、倦怠感が体を襲う

ただ今のやり取りであちらの警戒心を強めてしまった


「…今の私の動きを捕捉するだけではなく躱して距離をとるなど、少年、君は一体何者だ?

いや、それも捕らえればわかるだろう」


そういってからおっさんのプレッシャーが一気に跳ね上がった

先頃のオークキングとは桁外れのプレッシャーに当てられて無意識に足が下がる

こいつはやばい

今の俺が50人いてもおそらく勝てない

圧倒的な実力差

そのままおっさんの姿がブレたのを最後に

俺は気絶した


「姫様、彼は一体?」

「あらハンス、分からないのかしら?相変わらず鈍い男ね」

「それは申し訳ございません、して彼は?」

「もうせっかちね。そんなに気になるのかしら?」

「それはもう。手加減していたとはいえ私の動きが見切られたのです。まず普通の魔人ではありません。見たことも聞いたこともない。」

「まぁ確かに貴方って一応魔人の中でも2番目に強いんですものね、まぁ彼が起きたら説明するわ。私の部屋に運んでおきなさい。」

「…分かりました。」



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暗い暗闇の中から意識がはっきりと浮かび上がってくる

そして完全に覚醒したら、何故か椅子に縛り付けられている


「え?ん?あれ?おっかしいなぁ夢かなぁ」

「夢じゃないわ、現実よ」

「あ、お前さっきのイカれ女」

「誰がイカれ女よ無礼者。全く失礼しちゃうわ」


いや初対面で捕えなさいとか言われて今椅子に縛り付けられてるんですけど

どうなんですかねこれは


「まぁいいわ、単刀直入に言うわね?あなた勇者よね?」

「え、あ、はい」

「姫様⁉︎」


あれ、なんで俺が勇者って分かったんだろうか

雰囲気かな?溢れ出る勇者オーラみたいなのが見えちゃったり?


「なんか変なこと考えてそうだけど、全く違うわよ?匂いで分かるのよ、匂いで」

「え、俺臭いの?今。そりゃ森の中で3日暮らしてたんで臭いかもだけど。」

「そうじゃないわ。私勇者の子孫なの。だからあなたが勇者だって分かったわけ。他の子孫よりも段違いで匂いがキツイから一発で分かったわ。なんせ城の中にいても匂ってくるんですもの。」


どうやら勇者の子孫同士はお互い独特な匂いを感じ取るらしい

そもそもなんで勇者の子孫なんているのかというと、実はこの世界俺たちみたいなのが召喚されるのは2回目らしいのだ

そして初代勇者にも俺のような魔人種に変化した勇者がいて、そいつの子孫がこいつの家系というわけだ


そして純粋な勇者、まぁつまり俺みたいな召喚された勇者は特に匂いがキツイらしく他と比べても一目瞭然らしい

勇者関連の資料が残ってるっぽいんだよね

ちなみに魔人種の初代勇者は当時の人類側の勇者を26人殺したらしい

まぁおかしいとは思ってた

どうしてニーナ達魔人側で勇者の活躍なんて絵本があるんだと不思議に思ってたんだ

だがこれで腑に落ちた

その絵本の勇者様がこいつの先祖様なんだろう


「話は分かった。それで?俺を縛ってどうしたいんだよ。」

「もちろん人類側の勇者の情報を吐いてもらうために。あとは私たちに協力してくれるかどうかの確認ね。」

「人縛っといてよく言うわな。俺が縛られたことを根に持ったらどうするつもりだったんだ?」

「その時はその時よ。勇者が召喚された今、私達だけじゃ勝ち目がないの。せいぜい勇者を4.5人道連れにするぐらい。それぐらいしかできないわ。それにあなた回りくどいの好きではないでしょ?」

「まぁそうだけど…」


どうしよう、この女苦手だ

ただ状況は分かった

要するに俺を正式に魔人側の勇者にしたいわけだ


「それで?返事はどうかしら?」

「そうだな…一つ、いや二つ条件がある。」

「いいわ、その条件受けましょう。」

「一つ目は……いやまだ何も言ってないんだけど?」


この女やっぱり頭のネジどっかいってない?

普通条件を聞いた上でどうするか決めるもんじゃないのか?


「一応言っておくけど、私がおかしいわけではないわよ?あなたにしか私達は頼れない。つまりあなたの協力を得られなかった時点で私たちの敗北は確定。せいぜい種を絶やさないように色々画策するぐらいしか無理なわけ。」

「なるほどね…ならまぁ好都合だ。俺の願いは俺がやりたい事はやらせてくれる事、俺の戦いの邪魔はしない事。これだけ守ってくれればあとは気にしない。」

「分かったわ。」


ぶっちゃっけこんな約束意味ないんだけどな

仮にこんなことしなくても俺は俺で好きに人類殺しまくるだけだからな

まぁ一応俺にもメリットがあるわけだから結果オーライだ


「よし。なら最初のお願いだ。そこのハンスさんといつでもガチバトルする権利をくれ。」

「分かったわ、ハンス?聞いてたわね?頼んだわよ。」

「姫様っ⁉︎」




さっきから体がうずうずして仕方ないんだよね!

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