2人
しゆ
7-1
「ねぇ、今夜星を見に行かない?」
突然、そんな件名のメールが届く。
本文は空っぽだ。
私は、「おばあちゃんか!」と一人ツッコミをいれる。
花織ちゃんは、スマホの扱いがあまり得意ではないらしく、私との連絡もLINEではなくメールで行う。
それでも、たまに変な変換でメッセージが送られてきたり、おかしなところで改行してあったりなど、微笑ましい失敗をしている。
今回も、間違えて件名にメッセージを打ち込んで、そのまま送ってきたのだろう。
いつもはしっかり者の花織ちゃんの、そういうちょっと抜けてるところも、私はすごく可愛いと思う。
おっといけないいけない。
ついつい話が逸れてしまった。
「星かぁ」
星なんて、もう何年も意識して見ていなかったなぁと気づく。
何の気なく夜空を見上げたり、視界の端に映っていることはあっても、星を見ようと思って星を見るのは久しぶりになるだろう。
「もちろん行くよ、楽しみにしてる!……っと」
私はさっそく返信を送ると、星のことについて簡単に調べてみる。
せっかく星空デートをするのだから、星のことについてもお話し出来る話題を用意しておきたい。
「へぇ~、冬になると星が見えやすくなるんだ〜」
どうやら、冬になると空気が乾燥するので、それによって星が綺麗に見えやすくなるということらしい。
なるほどねぇ。
──────────────
今、私と花織ちゃんは2人で並んで歩いている。
目的地は、少し小高い丘の上にある展望台だ。
「お天気が悪くなくて良かったね〜」
「あぁ、そうだね。雲もほとんどないし、今日はきっと星がよく見えるよ」
2人でお喋りしながら坂を登っていると、軽く息が上がってほんのり汗ばんでくる。
「おっ、見えてきたね」
「あっ、あれかぁ」
そうこうしていると、目的地の展望台が見えてくる。
坂を登りきった先にあったのは、木製の可愛らしい展望台だった。
階段を登って、展望台の上に上がると、レジャーシートを引いて2人で並んで座る。
「綺麗だねぇ」
「あぁ、そうだね。
冬は空気が澄むおかげで、星が見えやすくなるらしいよ」
「あ!それ私も見た!!」
私が調べたのと全く同じ内容の話が花織ちゃんから出てきて、私が驚くと
「一途と星空の話をしたいなと思って、少しだけ調べてみたんだ……」
そう言って花織ちゃんが照れ臭そうに笑うので、
私は、花織ちゃんが自分と同じことを思ってくれていたのが嬉しいのと、花織ちゃんの照れ笑いがかわいいのとでにこにこしてしまう。
街明かりもなく木々に囲まれてしんとした中でこうしていると、まるで世界に2人っきりになったみたいだなぁなんて、ロマンチックなことを考えるもので、私は少しくすくすと笑う。
「ひぇっぷしゅん!!」
……しまった。
ロマンチックな思考に沈んでいた私は、完全に油断していた。
完全に油断して、特大のくしゃみを披露してしまった。
絶対に可愛くなかっただろうくしゃみに、顔が赤くなる。
「ウハァ~……」
私が頭を抱えて恥ずかしがっていると、身体が温かいものに包まれる。
顔を上げてみると、至近距離に花織ちゃんの顔があって思わず変な声が出そうになる。
「これで少しは温かいかな?毛布でも持ってきたら良かったね」
どうやら、花織ちゃんが着ているコートで私を包み込んでくれたらしい。
まるで恋人みたいな、いや恋人なのは間違いないんだけど、とにかくとんでもないシチュエーションに一気に体温が跳ね上がる。
「ア、アタタカイネ」
声が震えた上に裏返ってしまう。
花織ちゃんがふふふっと笑うと、その振動が私の身体にも伝わってくる。
私は、一度咳払いしてから言い直す。
「とっても温かいよ。ありがとう、花織ちゃん」
「ふふっ、良かった」
「一途のおかげで、僕もとっても温かいや。」
──────────────
それからしばらく、2人で寄り添って星を眺めた。
花織ちゃんの匂いと私の匂いが、
私の熱と花織ちゃんの熱が、
互いに絡み合って溶けていくようだ。
花織ちゃんの鼓動に包まれて見た星空は、とても綺麗だと思った。
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