イルミネーションより綺麗なものは?

しゆ

2作目


12月10日火曜日。

私には今日、重大なミッションがある。

それはズバリ!花織ちゃんとデートに行くことだ!!

クリスマスを目前にしたこの頃、街にはいろいろなイベントがあふれている。

花織ちゃんとは今までにも何度も遊びに行ったけれど、私達はデートというものをしたことがない。

なんだか照れくさくって、なかなか改まってデートに誘えなくて、今まで通り2人で遊びに行くだけに留まっていたのだ。

だけどせっかく恋人になれたのだから、大好きな人とデートをしたいと思ってしまうのが女の子というものだ。

そんなわけで私は、記念すべき第1回目のデートに彼女を誘おうとしていた。

目的地は駅前のレンガ造りの並木道。

あそこの道は今イルミネーションで飾り立てられており、それが今日から点灯されることになっているのだ。

クリスマス(はまだ少し先だけど)に恋人とイルミネーションを見るなんて、ベタベタで定番のデートと言えるだろう。

キラキラと綺麗なイルミネーションに囲まれながら2人で一緒に歩いて、あわよくば手なんか繋いじゃったりして……。

我ながら、完璧な計画に頬が緩んでしまうが、このミッションには1つだけ大きな問題があった。

それは、私が花織ちゃんにイルミネーションのことを一言も話していないことだ。

早く花織ちゃんを誘わないともうすぐ放課後になってしまう。

花織ちゃんにだって予定があるんだから、早く声をかけなくちゃ!!……


───────​───────​


現在時刻は16時50分。イルミネーションの点灯は17時からのはずだから、ちょうど良いくらいの時間に着くことが出来た。


あの後私は、6時限目の授業が終わるとすぐに、花織ちゃんをイルミネーションに誘った。

花織ちゃんは2つ返事でオッケーしてくれたので、張り切って出発したのが20分前のことだ。


「楽しみだね!!」


と弾む声で告げれば


「そうだね」


と優しい声が帰ってくる。

あと10分のことが待ち遠しくて、なんだかそわそわしてしまう。


「ねぇねぇ、花織ちゃんはここのイルミネーション見たことあるの?」


ふと、疑問に思ったことを尋ねる。

2つ返事で来てくれたから安心していたけど、花織ちゃんがここのイルミネーションを見慣れていて、退屈させてしまったらどうしようと、少しだけ不安になる。


「いや、ここのを見るのは初めてなんだ。楽しみだよ」


良かった。花織ちゃんも楽しそう。


「それに、初めてを一途と一緒に見られるのも、とっても嬉しいんだ」


「そっっ!そうなんだ!」


屈託のない笑顔で突然投下された爆弾に、思わず声が裏返ってしまう。

花織ちゃんはフフッどうしたの?なんてくすくす笑っていたけれど、私はそれどころじゃなかった。

こんな調子で、私大丈夫かな……?


───────​───────​


17時になって、イルミネーションが続々と点灯されていく。

薄暗くなりかけていたレンガ通りは、一気に華やかな明かりに包まれる。


「うわぁ~綺麗〜!!」


星や花、可愛らしい動物達などを象った様々な装飾がキラキラと降り注ぐように私達を照らす。


「ねぇ花織ちゃん!!とっても綺麗!!」


私ははしゃぎながら、隣の彼女を見上げる。


「うん、すごく綺麗だ」


華やかな光に照らされて、私の方を見つめる彼女の顔は、まるで宝石のように美しくて……


ゴクリ。つばを飲む音がやけに大きく聞こえる。


「ねぇ、花織ちゃん」


私は声が震えないように気をつけながら言う。


「これって、デート……みたいだよね?」


言ってしまった後で、恥ずかしくなった私は、ぎゅっと目を閉じる。


しかし、少し待っても花織ちゃんは何も言ってくれない。


恐る恐る目を開けると、ぽかんとした顔の花織ちゃんと目が合う。

花織ちゃんの珍しい表情を、こんな顔も可愛いなって思っていると、花織ちゃんは勢い良く笑い始めた。


「な、何か変なこと言った?」


私が聞くと


「ふふっあははっ!いや、いいや。何もおかしくないよ。ただあまりにも、一途が可愛くてね。ふふふ」


花織ちゃんは、しばらく笑った後、少し息を切らしながら言う。


「そうかそうか、そうだったんだね。

今日はなんだか、一途の様子がいつもと違うと思っていたんだ。

デートに誘ってくれようとしてくれていたんだね」


花織ちゃんはまだ笑いが収まらないといった様子で楽しそうだ。


「そ、そうだよ!!今日1日、いつ誘おうかってやきもきしてたの!!」


私は顔を真っ赤にしながらなかば叫ぶように言った。


それを聞いた花織ちゃんは、何か合点がいったような顔をして言う。


「なるほどね。道理で……」


「何が道理でなのよぅ……」


私は恥ずかしいのと悔しいのとで少しむくれながら聞く。


「今日の一途は、いつもといろいろ違ったからね。

いつもより丁寧に爪を磨いていたり、いつもと違う髪留めをしていたり、そして何より、いつもより更に可愛い。」


「どうしたんだろうと思っていたんだけど、僕とのデートのためにおめかししてくれていたんだね」


「こんなに可愛い恋人がいて、僕は幸せ者だよ」


花織ちゃんが私を見つめる目はすごく温かくて、私は思わず零してしまった。


「ねぇ、花織ちゃん……私……」


「何?一途」


花織ちゃんが優しく囁く。


「花織ちゃんと手をつなぎたいな」


───────​───────​


帰り道、花織ちゃんは静かに告げる。


「ねぇ一途、手をつなぎたい時はもっと気軽に言って良いんだよ。

冬はね、寒いんだって理由だけで手をつなげる、唯一の季節なんだから。

僕なんかの温かさで良ければ、いつでも分けてあげるからね。」


……あぁ、ほんとに


「ねぇ、花織ちゃん」


ほんとにこの人は……


「私今、とっても寒いの……!!」


            〜fin〜

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イルミネーションより綺麗なものは? しゆ @see_you

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