ほんの日常のひとコマ妄想

しゆ

1作目


「あっ!」


学校に着いて、廊下の少し先に、見慣れた大好きな背中が見える。

綺麗な姿勢で軽やかに歩いているあの子は、今日もとってもとっても素敵。

いつもみたいに駆け寄って、声をかけようかと思ったけれど……ふと、悪戯心が湧いてくる。


(いつも優しくて穏やかなあの子の、驚いた顔を見てみたい)


一度芽生えた悪戯心はむくむくと膨らんでしまう。

とは言え、どうしたものかと思案してみるも、これがなかなかどうして難しい。


(普通にわぁっ!!ってするだけだと芸がないし、かといってあんまり危ないこともしたくない……。

……後ろから突然抱き着いてみたらびっくりしてくれるかな?)


「うん、決まり!」


善は急げ!思い立ったが吉日だ!と、あの子目掛けて駆け出した。


「おはよう花織ちゃん!!」


大好きな彼女の名前を呼んで、思いっ切り後ろから抱きつく。

それから彼女の顔を覗き込もうとしたところで、私はふと我に返る。


(ひょっとして私は今、とんでもなくとんでもないことをしたのでは……?)


自分のしたことに気づいて、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

一気に鼓動が早くなって、鼓動の高鳴りに気付かれたくなくて、慌てて少し離れる。


「おはよう一途。今日も元気だね」


花織ちゃんは何事もなかったかのように挨拶を返してくれる。


私は恥ずかしさで顔を隠しながら謝る。


「うぅ〜ごめんね花織ちゃん。びっくりした?」


すると花織ちゃんは何かに気づいたような顔をした後、少しイタズラっぽく笑って答える。


「なるほど。僕を驚かせようとしたんだね。それはとても可愛らしいけど、残念ながら驚いてはあげられないな」


「だって、大好きな恋人のことなんて、どこにいたってすぐに気がついてしまうからね」


その言葉に、私は完全にノックアウトされて、その場にうずくまって叫んでしまった。


どうやら、私はまだまだあの子には敵わないみたい。

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ほんの日常のひとコマ妄想 しゆ @see_you

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