星の織りなす物語 Stars Aligned, Threads of Destiny Woven

序章：時の塔の司書

　静謐（せいひつ）な空間に佇む司書の瞳は、どこか虚空（こくう）を映すように曇っていた。塔の中に響くのは、ページをめくる乾いた音だけ。その音が消えると、再び支配するのは深い沈黙だった。日々繰り返される作業には、既に喜びも意味も宿らず、それは砂時計の砂が永遠に落ち続けるような徒労感（とろうかん）に似ていた。彼女はわずかに目を伏せ、ため息を飲み込んだ。

「また、無意味な本か……。」

　彼女が手に取る本の大半は、無秩序に並んだ文字の羅列（られつ）にすぎなかった。ときに意味のある単語が繋がった本に出会うこともあったが、それは数年に一度の奇跡だった。それらは彼女の書棚に並べられ、ひっそりと光を浴びていた。司書にとって、それが唯一の宝物だった。

　しかし、彼女の本当の楽しみは別にあった。それは新たな物語を紡（つむ）ぐこと――彼女の心を満たす唯一の行為だった。拾い集めた断片的なフレーズを繋ぎ合わせ、彼女は自らの手記に新しい物語を書き加えていった。創造という行為は、彼女にとって孤独な世界に色を加える絵筆（えふで）のようなものだった。

　塔は、彼女の全てだった。山々を越えた遥か彼方、雲を突き抜けるようにそびえ立つその塔は、孤独と永遠が形を成したような存在だった。塔の中庭にはさらなる小さな塔があり、その周囲を無数の書庫や階段が取り囲んでいる。窓の外には荒涼（こうりょう）とした大地が広がり、時折（ときおり）訪れる風が砂を巻き上げる。その景色を眺める彼女の顔は、どこか遠い未来を見つめているようだった。

　司書の服は星空をそのまま纏（まと）ったかのように輝き、暗い部屋の中ではそれが彼女自身の身体を消し去るかのように浮かび上がって見えた。髪は黒の中に紫の光を帯びており、その端正（たんせい）な輝きは彼女の冷たい美しさをさらに際立たせていた。その青白い顔に浮かぶのは、どこか虚（うつ）ろな微笑みだった。孤独が紡（つむ）ぐ美は儚（はかな）くもあったが、同時に他者を寄せ付けない冷厳（れいげん）さを持ち合わせていた。

　塔の中での生活は、彼女にとって自由であると同時に、呪縛（じゅばく）そのものでもあった。誰にも邪魔されることのない日々は、彼女の感性を研ぎ澄ませ、その静けさの中に独自の美を生み出した。彼女は服を選び、髪を整え、その静寂（せいじゃく）の中で自己を見つめ続けた。