漂流郵便局
@tsukimine
第1話
(__柊也の事が、)
26歳の春。
この歳になって、こんなにも愚かな感情に囚われるとは思いもしなかった。
柊也が隣で「どうかしました?」と声をかけてくれる。気遣いが出来て、仕事を覚えるのも早いそんな。二個下の、良い後輩だ。でも、俺はもう綺麗な目でこの男を見れなくなってしまったのかもしれないな。
「何もないよ」
クーラーの効きすぎた部屋の冷たい空気に、額を伝う汗だけが浮いている。俺はただ、ぐるぐると思考の中をさまよっていた。
ふとした瞬間だった。仕事の手を動かしながら、目の端で彼の仕草を追ってしまう。何をしているわけでもない。普通にパソコンの画面を見て、ペンを走らせているだけ。それなのに、胸が痛むような感覚に襲われてしまったのだ。
どうして、こんな気持ちになるんだろう。
自分に問いかけてみるが、答えなんてわかるはずもない。ただ一つだけ確信しているのは、この感情が俺にとって禁忌であるということ。
柊也は、器用なやつだ。
きっと俺がどれだけ未熟で下手な言葉を吐いても、表面上は何事もないように振る舞うだろう。だけど、それでもいいなんて思えない。柊也との関係が壊れるかもしれない未来を想像するだけで、足元から崩れていくような気がする。
俺たちの会社は社内恋愛禁止だ。仮に彼が俺の気持ちを受け入れてくれたとしても、その先には地雷だらけの道が待っている。俺のせいで柊也まで巻き込むわけにはいかない。
だから俺は決めた。この感情に鍵をかけることを。
誰にも見つからないように、柊也にも悟られないように、自分の心の奥深くに封じ込める。ひとつ、ふたつ、三重にも四重にも鍵をかけて、絶対に開けられないように。
いま思えば、それが始まり。
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