とりあえず歩こうとドナは思った。

 食べるものも、飲みものもないけど、別に構わないと思った。

 私が力尽きて倒れたときは、きっとこの子が私を食べてくれるのだろうと思った。(ドナは自分のとなりをゆっくりとその白い毛並みの体をドナにくっつけるようにして歩いている白い子供の狼を見て笑った)

「いたっ!」とドナは足を止めて言った。

 痛みを感じた自分の左足の裏を見ると、そこからは真っ赤な血が流れていた。

 ドナは神殿で目を覚ましたときからずっと裸足だった。

 ごつごつしている色のない大地の上を歩くたびに痛みを感じてはいたのだけど歩けないほどではなかったから我慢していた。でもこれだとさすがにもうさっきまでのように元気に歩くことはできないなとドナは思った。

 ドナは「はぁー。まいったな」と言うと、とりあえずその場に座り込んで、真っ赤な血の出ている足の裏を手で揉んだり汚れを払ったりした。

 そんなことをしていると、白い子供の狼はドナの血の出ている左足の裏をその真っ赤な舌で、ぺろぺろと舐めてくれた。

 どうやら白い子供の狼はドナの傷の手当てをしてくれているみたいだった。

「あ、汚いよ」とドナは言って、やめさせようとしたのだけど、白い子供の狼はドナを一度見てから、また優しくドナの血のでている足の裏を舐めてくれた。

「ありがとう。君はとっても優しいね」と白い子供の狼の頭を撫でながら、ドナは言った。

 それから思わずドナは泣き始めてしまった。少し油断をして、感情のたがが外れてしまったのかもしれない。

 一度泣き始めると涙は全然止まってくれなかった。

 白い子供の狼はドナの足の裏の血が止まると、足の裏を舐めることをやめて、またドナに甘えるようにその体をくっつけてきた。

「よしよし」白い子供の狼の体に寄りかかるようにして、ドナは言った。

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