第25話
24年 10/31 10:00:ブレイナ共和国:領空
第一○一護衛隊が海賊を根絶やしにし、各地の鉱山が徐々に輸出を始め、国内では渋谷がのんきにハロウィーンに湧いている頃。
ここ最近地獄の連勤が続いている赤坂を筆頭とした、外交団がブレイナ共和国から湖に面したガルト三頭連合への縦断を開始していた。
外交団は国境近くの街から陸自のヘリで、護衛はヴ第二共和国のワイバーンである。
実を言えば、上空に日米のF-35とボーイング E-767、KC-767が高高度にて随伴している。
わざわざ、仮設飛行場に強引に着陸してまで来援してくれた。
だが、知るものはせいぜい不穏な話を聞き裏で護衛を頼んだ隊員と、その上官ぐらいである。
「なんというか……慣れないですねぇ。チヌークの周りをワイバーン囲んでる光景っていうのは」
「慣れたらとうとうこの世界の国家になるな。慣れない方が良いんだか悪いんだか」
[前方に未確認機、おそらくブレイナ共和国のワイバーンでしょう。ヴァクマーの護衛に先導させます]
直ぐに直掩のワイバーンが先行していく。
ワイバーンというものは既にわかっている通り遅い。
レンドロ協定加盟国では既に基礎技術の供与が開始されているが、それでもワイバーンレベルの航空機は制作できる。
もちろん、基礎技術の供与がいつ終わるのかは未知数であり、本格的な航空部隊の運用開始には一体全体何年かかるのか知れたものではない。
先行したワイバーンとブレイナ共和国のワイバーンの案内によって、外交団はブレイナ共和国首都レンスクへと降り立った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 11/1 10:00:首相官邸:閣議室
「というわけでして、将来的な貿易赤字が確定しております…‥」
世界の基軸通貨になるというのは、世界経済を支配できると同時に、通貨高が確定するという側面もある。
円高が進むというのは海外製品を安く買い叩ける反面、自国産製品の競争力低下と輸出難を引き起こすこととなる。
「既に国内農産物は具共和国産の食料品によって競争力の低下を招いております。
円高と具共和国の食料品がもともと安価であったこと、そこに更なる値下げが直撃した形になります。ただでさえ低い食料自給率の低下に繋がるかと……」
「農産物の販売価格引き下げは不味かったか。まあいい、この際農業関連に大幅なテコ入れをするとしよう。
ソルノク市街地周辺は未だ未開発だ。
ここにJIMIC同様国内の農業関連企業と共同で開発に乗り出そう。
諸外国の農業革命にもつながるはずだ。
国内の農家には補助金制度を導入し生活を安定化させろ、協力してくれる方にはソルノク現地での農業指導もお願いしたい」
既に日本の食料自給率というのは地の底へと落ちていた。
大きな要因は肥料輸入の途絶による暴騰である。
これにより廃業に追い込まれた件数は計り知れない。
食料安全保障などという言葉がある程度には、食料自給率というのは致命的な打撃になり得るのだ。
「それにしてもだな……由木」
「まぁ、概ね予想通りでしょうね。食料供給を依存させて敵対できないようにする腹積もりでしょう」
「そうだろうな。伊丹、ささやかな反撃だ。グランシェカ産の食料品で加工食でも作って海外に売り捌いてやれ。グランシェカ産食料品の流通規制にもなるだろう」
表立って流通規制など行えば対立を招きかねない。
だが企業が安さに目をつけて買い叩いたとなれば話は別である。
ただ輸入会社から直接購入し、市場への流入が減るだけである。
「わかりました。補助金でも出せば大喜びで受注してくれるでしょう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 11/2 12:00:日本国:ソルノク特別行政区
「状況終了!」
ヴァクマー帝国ことヴァクマー第二共和国との終戦から1ヶ月がたった。
ヴァクマー第二共和国はほとんど衛生国家のような状況になっているわけだが、この国はもともと陸軍大国である。
そして、将来的な最前線となる可能性が非常に高い国家であった。
そんな国家を前近代的な軍隊のまま捨て置けるほど日本と自衛隊に余裕はなかった。
「全演習参加部隊は直ちに集結地点に移動を開始せよ!移動猶予は1時間!以上!」
演習の結果はヴァクマー国防軍の惨敗である。
もちろん、この1ヶ月間自衛隊式の訓練と
このソルノク特別行政区での合同特別長期訓練に派遣されてきているのは国防軍部隊は精鋭部隊である。
そしてもちろんのこと自衛隊も精鋭である。
自衛隊の虎の子である富士教導団を主として、第三十九普通科連隊に敗北するまで無敗神話を確立していた訓練評価支援隊。
日本国内でも数少ない実戦経験部隊となった水陸機動団や第一空挺団。
冬季戦技のスペシャリストこと冬季戦技教育隊。
計7つの精鋭部隊の中でも選抜された隊員によって編成された現代戦教導隊が相手である。
もちろん条件は対等、むしろ国防軍側が有利だったと言ってもいい。
武装は同レベルだが、国防軍側との彼我兵力差は2倍、砲迫なども2倍である。
それでも、現代戦に対する理解度と練度で彼らを追い越すことはできなかった。
だが、そんな彼らが繰り出した秘策が一つあった。
「オートバイを大量に要求してきたのはあれが要因でしたか」
「確かに騎馬とオートバイは似てるっちゃ似てるが……それでもああはならんだろ」
旧騎兵隊によるオートバイの大規模運用である。
彼らは騎馬から鉄馬へと乗り換えても手足のように操縦してきた。
森林地帯を一つの事故もなく突破し後方へ奇襲を掛け、射撃を繰り出しながら急速離脱。
大雨あとの地獄のような泥濘で機甲教導隊のオートすら出たくない状況をものともせず突撃を敢行。
塹壕に直接乗り入れて来たときには統裁員の待ったが入る始末である。
「まじでイカれてますよ。オートバイのポテンシャルを200%ぐらい発揮してんじゃないですかね」
「教導隊の奴らより乗りこなしてたぞアレ」
結果的に陸自側の損害の殆どが機械化騎兵隊を起因としたものとなっていた。
なんなら保有していた爆薬で、指揮系統の一部に死亡判定を叩きつける大金星すら上げている。
「なんというかあれだな。俺らも公務員なんだって言うのを分からされた気がするよ」
「まあ……総合的な勝利はこっちのものですけど、戦闘全体を見れば最終的な目的であった最低限の練度の確保は達成できてるんじゃないですかね」
そんなことを遠い目をしながら話すのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 11/2 14:00:ブレイナ共和国:領空
ブレイナ共和国との会談は散々なものであった。
もともとブレイナ共和国は親ルレラ連合・反レンドロ協定という色が強い国家であった。
どこぞのクソったれのような奴は出てこなかったものの、ルレラ連合側に付けという話で会談は平行線を極めた結果、なんの成果もなかった。
せいぜい、ルレラ連合が旧世界のロシア的な国家であるということがわかっただけである。
外交団は、そんなブレイナ共和国を後にし、ペストレラ大公国への空路を辿っている
その外交団が飛行中の空域に、存在するはずのない航空機と翼竜が飛行していた。
[SkyEye,Escort,Request Picture]
(敵機情報を求める)
[Escort,Picture 3 groups,East group BullsEye 107/30 5000 Track West Bogey,
Mid group BullsEye 357/31 5500 Track North Bogey,
West group BullsEye 259/29 5000 Track East Bogey]
(敵機は3グループ、EASTはBullsEyeより107/30 5000の位置から西へ移動中、所属不明期である。
以下同様)
「領空にいる間に撃ち落としてゴマすりの元か脅迫にって魂胆か?ご生憎様だがお引き取り願うとしよう」
F-35A Lightning II、ご存知の通りの最新鋭ステルスマルチロール機である。
武装はAIM-9X サイドワインダー 2本、AIM-120C AMRAAM 4本、Mk82 500lb爆弾 2発に増槽と、ステルス性をかなぐり捨てた
レーダーなぞ存在しないかステルス性など無意味かのどちらかしか想定していない状態だ。
そんな鉄翼獣は音速でEASTグループに接近していた。
ブレイナ共和国の航空基地から都合よく離陸し、都合よく外交団輸送機を包囲しようとしている輩の殲滅である。
英連合帝国からそういう国家だという話は聞いていた。
30マイルなどものの数秒で消し飛び、"減速無し"で敵機の群れに飛び込む。
衝撃波というものは時に大惨事を引き起こす。
ロシア・チェリャビンスク州の隕石落下時の衝撃波の例を見ればその恐ろしさが分かる。
たかだかワイバーン如きにそんな衝撃波を耐えうる能力は存在しなかった。
敵機4機はバランスを崩し騎手脱落・気絶・墜落と阿鼻叫喚である。
撃墜はしていない。
あくまで認識していなかった翼竜の周辺を、F-35がたまたま通ってしまったがために起こった不幸な事故である。
「ッハッハッハ!外交官を消し飛ばそうなんざ考えるじゃねえよ!
このまま基地までの遊覧飛行と洒落込もうじゃねえか!」
F-35は最強の戦闘機の名に恥じない機動を見せつけながらMIDグループ、そしてWESTグループを通り魔的に破壊していく。
既に空域に敵なし、全てを破壊し尽くしていた。
空域を破壊し尽くした鉄翼獣の次のターゲットは本土の基地。
WESTグループを破壊しながら急降下したF-35の現在高度は500ft。
500ftと聞くと高く思えるかもしれないが、その実情は150mである
WESTグループが離陸した航空基地に全速力で接近していく。
「Hey!Facking Guys!F-35様のお通りだ!道を開けなぁ!
地上でチビってる事しかできねえお前らにプレゼントだ!存分に喰らいな!」
豪速で基地上空を通過した後に残ったものは、衝撃波によって廃墟の様相を呈したものだけであった。
死者はゼロだが負傷者多数。
"白星の黒龍"
間近で体の白星を見た者がそれに付けた異名である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます